絵本と子育て [167KB]

4.絵本の楽しみ・絵本の喜び

(1)その1~子どもと絵本の関わり~

 子どもが絵本に導かれたのは、親が絵本の読み聞かせをしたからでしょうか。その例が圧倒的に多いと思われますが、いつもそうとは限りません。

 ある1歳の男の子は、車が大好きでした。毎日、母親に抱っこされたり靴を履いてヨチヨチ歩いたりしながら外へ車を見に行きました。父親は車のセールスマンで、毎月購読している「モーターマガジン」と言う雑誌を見ていました。1歳の息子は、この本に目を留めました。グラビアについているカラー写真のすばらしい外車の数々、本の中のページに載っている白黒の車の一台一台に目を奪われてしまったのです。それからは車の絵や写真であれば、カラーでも白黒でも関係ありません。まるで研究しているような目つきでみて「ブーブー、ブーブー」と言うのです。母親も分かる範囲で「ブルーバードね」とか「フォルクスワーゲンね」とか教えていました。

 息子が車キチのようだと思った父親は、本屋から「ずかん・じどうしゃ」(福音館書店発行)を買ってきました。

 1歳のこの子は、その日からどこへ行くにも「ずかん・じどうしゃ」を放しませんでした。絵本の見方も、はあはあと呼吸をしながら興奮しているようです。すっかり「ずかん・じどうしゃ」の虜になってしまったのでした。

 父親は何の気なしに「まだ早いかもしれないが、車が好きみたいだから見せてみようか。」と車の図鑑を買って来たのです。無地の画面に外車が勢ぞろいしているのを見たこの子は、「うわっ!」と歓声を上げました。ご飯の時も図鑑を両手で大切に抱えてテーブルに上げました。もう図鑑を絶対に放しませんでした。車の図鑑は、この子の宝物になったのです。
 

絵本と子育て

 その後、この子の興味は、「じどうしゃ」「とらっくとらっくとらっく」「ぱとかーぱとくん」「しょうぼうじどうしゃじぷた」(いずれも福音館)へと広がって行きました。

 ある1歳の女の子は、母親がケーキ作りが大好きでケーキの本を開くと、白いケーキに赤いイチゴを埋め込んであるページが好きで、床の上にケーキのページを広げておくと、興奮して息を弾ませながら見ていました。

 何か赤いものが好きなようだと思った母親は、図書館へ行って「くだもの」(福音館)を借りて来ました。1歳の赤ちゃんの目に表紙の赤いさくらんぼがうつり、続いて真っ赤なスイカの切り身が見えると、この子はあのケーキのページを見た時と同じように興奮してはあはあ言い始めました。それ以来この子は「くだもの」の絵本が大好きになってしまったのです。そして「やさい」(福音館)「たべもの」(文化出版局)などの絵本を次々と見るようになったのです。

 絵本は、前の男の子のように父親の車の絵本に導かれたり、この女の子のように母親のケーキの本から絵本に導かれたりすることもありますが、どちらも赤ちゃんの興味や好奇心をしっかり把握して絵本に結び付けてくれた人がいるのです。テレビやビデオを見せっぱなしにして育てていたのでは、絵本好きの子はなかなか育たないでしょう。

 
               ~つづく