4.絵本の楽しみ・絵本の喜び
(3)その3~家庭での読み聞かせの留意点~
1)絵本を通してのコミュニケーションを見逃さないようにします。
子どもは、言葉を良く話せなくても、開いた絵本の絵を指さして母親の方をちらっと見たりすることがあります。「お母さん、この動物は何なの?」と聞いているのです。だから『圭子ちゃん、それはワンワンよ。ほら、赤ちゃんのワンワンもこっちにいるよ』と言うように、時を逃さず的確に子どもの問いに答えてあげましょう。
2)絵本を寝床に持ち込むことがあります。
子どもは自分の大好きな絵本を何冊も枕元に持ってきて、絵本と一緒に寝ることがあります。これは、就眠儀式と言われるもので、ある時はしばらく続きます。特別害になることではないので温かい目で見守りましょう。
好きな絵本を夕食のテーブルの上やトイレにまで持ち込むことがありますが、同じように扱い温かい目で見守りましょう。
3)母親に抱っこされたいとき
母親が一日中忙しくて、普段のように抱っこしてくれなかった時など、いつも抱っこして絵本を読んでもらっている子どもは、絵本を抱えて「ママ、絵本、読んで!」とやってくるでしょう。そんな時は絵本の良しあしなどは関係がないのです。
母親に抱っこされることだけが目的ですから、どの本でもいいのです。子どもが持ってきた絵本をしっかり抱っこしてすぐに読んであげ、こどもを安心させるようにしましょう。
4)語呂(言葉のリズム・言葉の調子)の良い絵本を聞きたいとき
これは、絵本のお話の中身は良く分からなくても、言葉のリズムの楽しい部分や絵の面白い部分を見るのが好きで絵本を読んでもらうものです。たくさんの子どもたちがこの道を通って絵本好きになります。
子どもは、自分が待っていたそのページに来ると、満面の笑みを浮かべて、絵を見たり母親が読む語呂の良い言葉をキャッキャッと笑いながら聞くものです。このような絵本の部分への子どもの興味を大切にしましょう。
5)空読みをしたいとき
子どもが絵本を持ってきたので、母親が読んであげようとすると「いらない」と言います。いつもはとても喜ぶのにどうしたものかと戸惑うこともありますが、すぐにその理由が分かります。
子どもは腹ばいになったり、椅子に掛けたりして母親のような格好をして「むかし あるところに おじいさんと おばあさんが すんでいました」とやるので、ははあ空読みだなと分かります。『すごいね。敬子ちゃん、ママみたいに絵本が読めるようになったんだ。』とほめてあげましょう。
6)ここで、三人の母親からの質問を取り上げてみましょう。
Q1: 上の子を育てる時は、子どもを抱っこしながら絵本を母親が自分の声で読んであげました。しかし、次の子の子育ては、自信がついたこともあって、絵本はCDが付いている専門家が読み聞かせをしているものをそろえました。
初めは何となく良い気分だったのですが、この頃は絵本の読み聞かせの時、あくびをしながら絵本をめくるだけの自分に少し嫌気がさしています。やはり、絵本は基本的に母親(大人)が生(なま)の声で読んであげるべきなのでしょうか。(二児の母親)
A1: これは、絵本だけでなく、素話(すばなし、口演童話、ストーリーテリング)でも同じことと思われます。絵本のような言語文化財は、人が生(なま)の声で読み聞かせをして、その人の人格が読み聞かせにも反映し相手に伝えられていくのです。バックに音楽が流れ、専門家が素晴らしい声で読み聞かせをしても、それが機械から流れてくる音である限り、母親の生(なま)の声の読み聞かせを超えるものではないと思います。
親子の絆を太くしていくためには、文化のレベルの高いものを与えることも大事ですが、それ以上に親の愛情が十分に込められた方法で与えることも大切なのです。お話を子どもに語り聞かせる時も、母親や父親が子どもに添い寝をしながら下手な語りでとつとつと話してくれ、それが毎晩の就寝の時の子どもの楽しみになる方がずっと大事なのです。
Q2: 今は、大きい絵本や小さい絵本、細長い絵本や大人の手のひらほどの小さい絵本などいろいろありますが、絵本の大きさに何か意味があるのでしょうか。
A2: 昔、絵本は本棚の大きさに合わせて作られました。整理するのが便利だったからでしょう。しかし今は、子どもの年齢や発達に絵本のお話や、絵を合わせるだけでなく、大きさも合わせて作っています。また、絵本の作者の個性も十分に表わされるように考えて絵本の形も作られています。
一般的に言うと、年長用は大きくて重い絵本、逆に赤ちゃんの絵本は小さくて片手でも持てるようになっています。また、お話の中身も大空と地面とを話題にしているような絵本は縦長になっているものもあり、お話の中身に合わせて細い横長になっているものもあります。
Q3: 知識の絵本と物語の絵本と言う言葉を聞きますが、具体的に説明してください。
A3: 絵本には、大きく分けると、知識の絵本(ものの絵本、認識絵本、観察絵本などさまざまな呼び方があります)と物語の絵本があります。
子どもにとってどれも絵本であることには変わりないのですが、どちらかと言えば、知識の絵本は絵を見ながら親子でお話しても良い場合が多いでしょう。
しかし、物語の絵本は絵を通してイメージを広げるように描かれているので、父親や母親の読み聞かせを絵を見ながら、黙って聞くことが多いでしょう。
例えば、子どもが、「ぶーぶー じどうしゃ」(福音館)を見て、「ブーブー」と指さして言ったとしたら、母親は、「そうね。赤いぶーぶーだものね。お手紙を運ぶ自動車だって!」と返事をするかもしれません。でも、『どうすればいいのかな』(福音館)の表紙の熊の絵を指さして「くまさん!」と言ったのであれば、『そうね。くまさん腕組みして変な顔してるね。何を考えているのかな。きっとこの絵本の中にくまさんの楽しいお話が入っているのね。お母さんが読むから、健ちゃん、静かに聞いてね。』と言うことになるでしょう。
言い方が少し違うのは、知識の絵本は、楽しみながら物を覚えて行くことが中心ですが、物語絵本の方は、読み聞かせをしてもらいながら無限にイメージを広げ、楽しさを拡大していく絵本だからです。
子どもには、大好きな絵本がありますから、いつも同じ絵本を読んでくれと持ってくるかもしれません。また、同じ絵本の特定の場所ばかり見ることもあるでしょう。それで良いのです。やがて、子どもの興味は他の絵本にも必ず広がっていくものです。
~つづく