絵本と子育て

5.子どもの精神発達からみた絵本(福音館書店の車の知識の絵本)

 ここで、絵本の奥深さを知るために福音館書店の5冊の車の知識の絵本を取り上げて、子どもの精神発達をどう捉えて作られているかを考えてみましょう。取り上げる絵本は「じどうしゃ」(寺島隆一画)、「ずかん・じどうしゃ」(山本忠敬さく)、「ぶーぶーじどうしゃ」(山本忠敬さく)、「じどうしゃに のった」(藤本堅二さく)、「くるまは いくつ?」(渡辺茂男さく・堀内誠一え)です。
 
 「じどうしゃ」は、赤ちゃんが見る絵本です。とびらには「すばるの360」が斜め前からみた姿で描かれています。車は、これが一番見栄えの良い格好だと言われています。この車が次ページから走り始めます。少し小さくなって描かれているのが分かります。次ページでは、この車がもっと小さくなって描かれています。しかし、車の向きは3ページとも同じです。次ページになると、この車は一転して横向きになりますが、赤い車の前を走るすばるをどの子もすぐ見つけるでしょう。次ページでは、この車は、前向きで左端に登場します。そして次ページになると、この車は重なって探しにくくなっています。いよいよ信号が現れました。すばるは後ろ向きで止まっています。しかし、緊急車両の消防自動車とパトカーは、赤信号でもサイレンを鳴らし、パトロールランプを回しながら行ってしまいます。次ページで曲がって行ったすばるは、もういなくなっています。
 
 この絵本は走っている車を描いているのに、なぜ道路を描いていないのでしょうか。それは、赤ちゃんの視力を考慮しているからです。赤ちゃんの視力は、1歳で0.2~0.25でほとんどの子が遠視だそうです。赤ちゃんは、地(背景)から図(対象)を抜き出す視力がまだできていないので、道路は、車をはっきり認知する邪魔になるのです。また、子どもの車に対する認知を高めるために、車の大きい姿、少し小さい姿、もっと小さい姿、横向き、前向き、重なった姿、後ろ向きなどが連続して提示されています。   
 
 最後のページの消防自動車は後ろ半分だけで登場しています。しかし、この消防自動車は、2ページ前に赤い車の全体像がしっかり描かれていて、前のページには、この消防自動車の後ろ姿が描かれていて、赤ちゃんが心配なく消防自動車の半分の姿を見ても、「あの消防自動車だ!」と認知できるように描かれています。赤ちゃんが、安心して何度も見ることができる絵本に仕上がっていることが分かります。
 
 同じころに与えられる「ずかん・じどうしゃ」は、無地の画面見開き2ページいっぱいににそれぞれの車が車種別に登場します。絵は、写実的な絵で赤ちゃんが見て、車の特徴がすぐに分かるようにはっきりと描かれています。
 
 赤ちゃんの絵本の「ぶーぶー じどうしゃ」には、子どものなじみの車が、見開き2ページに一台ずつどんと登場します。軽自動車から乗用車、園バス、赤い郵便車、パトカー、救急車と息もつかせないほどに楽しい車の絵が続いて迫ってきます。
 
 これらの絵本で育てられた子どもたちは「じどうしゃに のった」に移っていきます。最初、どの車を見ても「ブーブー(車の総称)」と言っていた赤ちゃんは、やがて「トアック」(トラック)、「ピーポー」(救急車)、「ウーウーウー」(消防自動車)「バシュ」(バス)、「ガガガガ」(ダンプカー)など車の色や形の特徴が分かり、正しい車の呼び方に似た言い方ができるようになります。

絵本と子育て

 
 また、子どもたちは月齢も進み、もう、地(背景)から図(対象)を抜き出す事も出来るようになっています。この絵本には、扉にミニトラックが登場します。そして、すぐ次のページには、ミニトラックが似た色の背景の中に描かれていますが、子どもたちは何の心配もなく、背景からミニトラックを見つけることでしょう。
 
 次ページには、集塵車とゴミを集める人、園バスと乗る子どもが描かれ、車と働く人、車と乗る人など車と人の関係が描かれていることが分かります。次ページは、車と道路の関係が描かれていますが、どの見開き2ページにも必ずミニトラックが出てきます。次ページのガソリンスタンドには、ガソリンを運んできたタンクローリーも見え、ミニトラックは給油中のようです。ガソリンスタンドで忙しく働く人の様子や、巡回しているパトカー警戒中のお巡りさんの緊張した顔も読みとれるでしょう。
 
 20~21ページの河川敷の作業車の絵のところには、どこを探してもミニトラックは見つかりません。でも、車キチと言われる子どもたちは、こんなページでもちゃんとミニトラックを見つけるので驚かされます。ミニトラックは、遥か向こうの橋の上を走っています。かえって大人は、見つけられないことが多いです。
 
 次ページには、横綱のようなダンプトラックと幕下のようなミニトラックが並んで描かれています。ここが、この絵本のクライマックスでしょう。この絵が、そのまま表紙の絵になっているのです。
 
 最後のページには、誕生日で自転車を注文した女の子のところにミニトラックが無事に新しい自転車を届けた様子が描かれています。自転車屋さんの息子は、「誕生日、おめでとう」と言っているようですね。
 
 車種を覚えて命名する時代から、人と車の関係概念や環境と車の関係などだんだん車に関する知識が広がって行く様子が良く分かりますね。
 
 そして、4歳以上になると、絵本は「くるまは いくつ?」へ移って行きます。おや?と思うようななぞもこの絵本には含まれていて子どもの興味を最後まで引きつけて放さないでしょう。
 
 福音館書店の車の知識の絵本は、今まで見て来たように子どもの視力、聴力の発達から知恵づきまで良く考えられて作られているので、安心して子どもに提供することができると思います。

~つづく