おいていかないで

 大きな野球帽をかぶって虫かごの中のトンボを見ている表紙の女の子が、主人公のあやこです。あやこにはお兄ちゃんがいます。
 ある日、お兄ちゃんがあやこを置いてこっそり遊びに出かけようとします。するとあやこは、「おにいちゃん、あそびにいくのね? わたしも いく」と追いかけます。ついてきてほしくないお兄ちゃんは、あの手この手であやこをまこうとするのですが、その度にあやこに見つかり、「おいていかないで」とつかまえられます。根負けしたお兄ちゃんは、とうとうあやこを一緒に連れて行ってあげることにするのです。
 あやことお兄ちゃんの掛け合いは、きょうだいでよく見かけるような光景です。きょうだいがいるお子さんはそれぞれの立場で、一人っ子のお子さんは「きょうだいがいたらこんな感じかな…」と想像しながら楽しめるのではないでしょうか。
 なんだかんだいって優しいお兄ちゃんと、そんなお兄ちゃんのことが大好きなあやこ。2人がとっても仲良しなのが伝わる絵本です。表紙の大きな野球帽と、虫かごのトンボにも注目して読んでみてくださいね。
 

田丸 美穂( 秋田県子ども読書支援センター )

(令和5年7月8日秋田魁新報掲載)

 

2023あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
 プールの季節がやってきました。皆さんは泳げますか? 泳げるようになりたい人は、ぜひこの絵本を読んでみてください。
 絵本によれば、イヌもネコもゾウもライオンも、みんな泳げます。だって体が水に浮くのですから。では、人間はどうでしょう? お風呂で試してみましょう。力を抜くと、手も足も浮かんできますね。しかも、動物も人間も、体の中に「うきぶくろ」があります。息をいっぱい吸うと、肺の中の空気が「うきぶくろ」の働きをして、体が水に浮きやすくなるのです。
 「はい、そうですね」と泳げるようになれたら簡単ですが、なかなかそうはいきません。でも大丈夫。絵本ではちゃんと、プールでの練習方法も教えてくれます。
 初めに、ゆっくりと歩く。それから走る、浮かぶ。おっとその前に、水のかけ合いっこで、顔がぬれても平気になろう。次は水の中で息を吐く練習。水の中で目を開けられるかな? 体を丸めると、ほら、浮いた。それから手を持ってもらって、横になる。そして足をばたばたさせると、前に進む。泳げるぞ。
 あとはプールで試してみるだけですね。どうぞ皆さん、良い夏をお過ごしください。
対象年齢 3歳ぐらいから
作者名等 筒井 頼子・作、林 朋子・絵
出版社 福音館書店