くだもの

 果物は好きですか? この絵本の表紙には、サクランボがいっぱい描かれています。背景が白いお皿のようで、サクランボのみずみずしさが際立っています。「一番大きいのはこれ」「こっちのほうが真っ赤だよ」「これは三つ子だね」など、表紙だけでも親子の会話が弾みそうです。絵本には、スイカやモモ、ブドウ…。果物が次々と登場します。
 果物はまず、全体像が描かれます。次のページでは、食べやすい形に切られていたり、お皿に盛られていたり。そして、「さあ、どうぞ。」という言葉とともに差し出されます。写実的な絵と言葉かけから、果物のおいしさが口の中に広がるような気分になります。
 熟したスイカからは味と香りが、ビロードのような質感のモモからはとろけるような甘さが、コロンとしたリンゴからはシャキシャキとした歯触りが、真っ赤なイチゴからは粒々した食感と甘酸っぱさが伝わってくるようです。
 絵本に出てきた四季折々の果物をお店で見つけたり、食べたりするのも喜びにつながると思います。絵本でもぜひ、果物のおいしさを思う存分味わってみてください。
 

田丸美穂( 秋田県子ども読書支援センター )

(令和5年6月10日秋田魁新報掲載)

 

2023あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 赤ちゃんから(0歳~ )
作者名等 平山和子・作
出版社 福音館書店