ゆかしたのワニ

 ぼくには、夜になるとやらなくてはならないことがあります。それは、ゆかしたのワニの歯磨きです。
 自慢の七つ道具を使い、すっかりきれいに、ワニがさっぱりするように磨きます。ワニはとっても大きいので、歯磨きには準備が必要です。まず、上顎と下顎の間に棒っ切れを挟んで、かまれないようにしなければなりません。
 懐中電灯を照らしながら、歯と歯の隙間にある鶏肉の切れ端をほじくり出し、歯ブラシでごしごし汚れを取り除きます。なにせ大きいので、歯を一つ一つ、隅々まで磨くのは一苦労です。黒い歯を見つけるとよく調べなくてはなりませんし、ワニがいつまでも口を開けてくれているとは限りません。
 「おおーー!」だんだん、ワニの息が荒くなってきました。こんな時はワニの喉をめがけて七つ道具のコショウをまいて…「へっくしょん」というくしゃみとともに脱出です。
 6月4~10日は「歯と口の健康週間」です。こんなこわもてのワニも、ちゃんと歯磨きをします。
 皆さんもしっかり歯をみがきましょうね。
 

佐藤 郁( 鹿角市立花輪図書館 )

(令和5年6月3日秋田魁新報掲載)

 

2023あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 5歳ぐらいから
作者名等 ねじめ正一・文、コマツシンヤ・絵
出版社 福音館書店