お互いの心を耕す絵本の時間(2013年度マザーズ・タッチ文庫絵本選考委員 長尾理可子)
仕事柄、大人になってからもたくさんの絵本と出会いますが、子育ての中で何度も読んだ(読まされた?)絵本は別格。手に取れば、当時の記憶を反芻し、ほっこり気分に浸れます。
懐かしい音楽を耳にした時、当時の記憶が呼び覚まされることがあるように、親になり、思い出の中にある絵本と再会する時、自分に読んでくれた大人たちの顔や声、匂いや温もりまでもが思い出され、じんわりと何かが心を満たすかもしれません。孫に絵本を読んであげる時、その柔らかい髪の毛の感触やぷくぷくした肌から漂う石鹸やミルクの匂いを感じながら、今は親となった子どもの幼い頃を思い出したりするかもしれません。そんなふとした瞬間に、つながりの中で生きていると感じることもあるでしょう。
本は、驚き、発見、興奮、心を動かす様々な感情の元となる世界を内に秘めています。中でも絵本は、絵を主体に簡単な言葉や文章で構成されているので、読んでもらえれば、乳児でも、そのおもしろさを体験できるものがあるのです。
そして、いつでも、どこでも、気に入ったら飽きるまで、何度でも繰り返し楽しめる、そんな1冊に出会えたらしめたもの。忙しい子育ての毎日に役立つ優れた道具にもなります。
子育ての中にある絵本の魅力は、ひとたび絵本を開いた瞬間から始まる穏やかなひとときが、例え5分、10分だったとしても、子どもと大人の心をつなぎ、お互いの心を育み、共有体験を伴った記憶というかけがえのない宝物となり得る点にあると思います。