ソメコとオニ

 もうすぐ節分です。今回は、鬼が登場する絵本をご紹介します。斎藤氏と滝平氏による絵本には、「モチモチの木」や「花さき山」など示唆に富んだものも多いですが、こちらは純粋に笑って楽しむことができると思います。
 ソメコは5歳です。家族や村のみんなは、いつも働くのに精いっぱい。誰もソメコが満足するまでは遊んでくれません。ある日、ソメコが1人で遊んでいると、知らないおじさんが現れ、おままごとに付き合ってくれます。喜んで遊んでいるうちに、ソメコはおじさんの岩屋へとさらわれてしまうのでした。
 ところが、ソメコは泣きません。暗い岩屋の中でも怖がらず、興味津々です。おじさんと2人きりで遊べることが、何よりうれしいのです。面倒になったおじさんは、とうとう自分の正体を鬼だと明かします。それでもソメコは笑って喜ぶのですから鬼はたまりません。
 初めは、ソメコのお父さんに脅迫状を書こうとしていた鬼ですが、ソメコに家に帰ってほしいあまりになんとも奇妙な手紙になってしまいます。切実さが笑いを誘い、鬼が少しかわいそうにも思えてしまう手紙をぜひ読んでみてください。

 伊藤 麻衣子( 横手市職員・司書 )

(令和5年1月28日秋田魁新報掲載)

 

2022あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 5歳ぐらいから
作者名等 斎藤隆介・作 /滝平二郎・絵
出版社 岩崎書店