大根はエライ

 この本の主役は「大根」。なんとなく脇役っぽいイメージで、一年中見ているからか特別感を感じません。しかし食材としての活躍ぶりはヒーローのよう。歴史ある野菜としての威厳もあり、魅力がたっぷりです。
 あらゆる角度から大根をみつめる作者の解説が、面白さを引き立てるイラストとともに、読み手の知的好奇心と食欲をくすぐります。
 はるか昔、地中海沿岸でアブラナ科の一種として生まれ、シルクロードを通って日本にやってきた大根。安価で栄養価が高く、どんな食材とも相性が良いことから料理法は豊富です。煮て良し、焼いて良し、葉も皮も使え、乾物や漬物、汁物にしても合います。SDGs(持続可能な開発目標)にも一役買いそうです。
 大根の新しい知識がひもとかれ、とても楽しく読み進められます。作者は大根を人気・実力ともにナンバーワンの野菜として大々的にアピールすべきだと主張しますが、大根は「ぼくは刺し身のつまのように出しゃばらず、相手を引き立てるのがお似合いさ」と言いそうですね。
 いよいよ冬が到来。大根は免疫力を高める食材の一つでもあるようです。やっぱり「大根はエライ」!

 仁村 由美子( 聖霊女子短期大学付属幼稚園・保育園 ) 

(令和4年12月10日秋田魁新報掲載)

 

2022あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 小学校低学年ぐらいから
作者名等 久住昌之・文・絵
出版社 福音館書店