いっこ さんこ

 
 はじめに大きなかぼちゃが1個登場します。ページをめくるとかぼちゃは3個になります。イラストに合わせて「いっこ、さんこ」という言葉が何度か繰り返された後に、描かれるものの数の法則が変わり、「いっこ、いっこ」になったり、「さんこ、さんこ、いっこ、さんこ」になったりします。絵本に出てくる言葉は「いっこ」と「さんこ」だけですが、韻を踏むことでリズム感が出て、歌うような楽しさが生まれます。 
 赤ちゃん向けの絵本は、食べ物や乗り物など分かりやすいテーマが多いものです。でも、この絵本で描かれるものは少し変わっています。かぼちゃの次に出てくるものは、一見ブタのようですが、背中の太い線はコインの投入口に見えます。「いっこ」と数えられるそれは、ブタの形の貯金箱なのでしょう。
 もちろん、イチゴや積み木など定番のものも描かれていますが、それらと同じように、ひもの結び目や木の端材も「いっこ」「さんこ」と数えられています。
 「1」と「3」という「数」を、リズミカルな「音」としても認識させる力。一貫性のないものにも自然に親しませる力。読んでもらっている子どもの笑顔を思うと、改めて絵本が持つ可能性の大きさを感じます。



 伊藤 麻衣子( 横手市職員・司書 )

(令和4年11月12日秋田魁新報掲載)

 

2022あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 赤ちゃんから(0歳~ )
作者名等 及川賢治・竹内繭子・作
出版社 文溪堂