おおかみだってきをつけて

 
 
 先週のこのコーナーでは、おおかみと7匹のこやぎたちが息詰まる攻防を繰り広げる絵本を紹介しました。今回紹介するのは、悪役のおおかみが主人公の、ちょっと現代風なお話です。
 童話絵本でのおおかみは、こやぎや赤ずきんによっておなかに石を詰め込まれたり、3匹のこぶたに大きな鍋で煮て食われたりする運命。この本の主人公のおおかみは「こわいのはやつらのほうだ」と思いながらも、おなかがすくのはどうしようもないので、絵本を片手に狩りに出かけることにします。
 ところが留守番中のこやぎたちは、はさみを手に元気いっぱい。赤ずきんはなかなか寄り道してくれず、その間に3匹のこぶたは立派なれんがの家を建てていました。おおかみを恐れない彼らを相手に、狩りは全く成功しません。
 目線が変わると、こやぎや赤ずきんよりも、慎重で生真面目な性格のおおかみを応援したくなってきます。自然界は食うか食われるかの世界。どちらか一方が悪役なんてことはないんです。この一冊が、物事をいろいろな面から見るきっかけになるといいですね。

 髙橋里后( 秋田市立中央図書館明徳館 )

(令和4年9月24日秋田魁新報掲載)

 

2022あふれちゃんのえほんばこへ進む

有名なグリムの昔話です。母やぎが森へ食べ物を探しにいくあいだ留守番をすることになった七ひきのこやぎ。母やぎからは狼に気をつけるようにいわれます。狼の見分け方はしわがれ声と足が黒いことです。
 まもなくやってきた狼は、こやぎたちが声や足で狼を見分けると知ると、白墨で声を綺麗にし、ねりこと粉で足を白くしてきます。そしてだまして戸を開けさせ、こやぎたちを次々に飲み込んでいってしまいます。助かったのは時計の箱にかくれていた一番末のこやぎだけでした。
 母やぎの悲しみは計り知れません。けれども狼のお腹の中で生きていることがわかると、こやぎたちを助けるためにすばやく動きます。
 この絵本の最後では悪い狼が死に、それをみたこやぎたちが「おおかみしんだ」と叫び、母やぎと一緒に踊りまわります。いっけん残酷に思われるような終わり方です。
 けれども、こやぎたちに気持ちを寄せてお話を聞く小さな子にとって、悪い狼の死は恐怖から解放、叫び声は安心した喜びの声に感じるのではないでしょうか。母やぎのこやぎたちへの愛情や親としての強さ頼もしさもしっかりと伝わってきます。
 繊細で美しい絵と、優しく語り掛けるような丁寧な訳が特徴の長く読み継がれてきた絵本です。
対象年齢 5歳ぐらいから
作者名等 重森千佳・作 
出版社 フレーベル館