なきたろう

 昔々のお話です。主人公の「たろう」は、生まれたときから泣き虫でした。怖いときや悲しいときだけではなく、どんなときでも泣いてばかりでしたので、みんなからは「なきたろう」と呼ばれていました。そして、たろうの飛び散る涙と大きな泣き声は、周りを驚かせ、困らせるものでした。
 たろうが八つになったときのことです。相変わらず泣き虫のたろうは、泣き比べをしたてんぐに遠くの山中に飛ばされて気を失ってしまいます。しばらくして目が覚めて、近くの泉の水を飲んでいたとき、そこに小人たちの姿を見つけました。珍しさにしばらく見入っていたたろうの耳に、小人の赤ん坊の泣き声が聞こえてきました。たろうもつられて泣き出しそうになりますが、自分の涙で小人たちを流してしまうと思い、泣くのを必死にこらえようとします。
 昔話の価値観や道徳観は分かりやすいものです。そしてその多くは、子どもたちを励まし、勇気を与えてくれるものでもあります。自分の弱さに向き合おうとするたろうの決意も、その姿に自分を重ねる子どもたちの背中を力強く押してくれることでしょう。

 伊藤 麻衣子( 横手市職員・司書 )

(令和4年8月27日秋田魁新報掲載)

 

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対象年齢 5歳ぐらいから
作者名等 松野正子・作・文/赤羽末吉・絵
出版社 復刊ドットコム