つりばしわたれ

 新緑の季節になりました。こずえの葉を透かして届く光も淡く緑に染まっているようです。カッコウもそろそろ鳴き始めますね。そんな山ふところを舞台にしたお話を紹介しましょう。
 おかあさんが病気になったので、トッコは山のおばあちゃんの家に預けられました。心細いのに強がりのトッコは、近所の子どもたちを怒らせたあげく、怖くて渡れないつり橋の向こうから「やーい、もやしっ子。くやしかったら、つりばしわたって、かけてこい」と言われてしまいます。
 ある日、寂しくなったトッコが山に向かって「ままーっ」と叫ぶと、「ままーっ」「ままーっ」と声がいくつも返ってきました。「あれはやまびこっていうんだよ」とおばあちゃんが教えてくれたので、「おーい、やまびこーっ」と呼んでみます。返ってくる声がだんだん大きくなったと思うと、目の前をカッコウが横切って…。あふれるほどの緑に包まれた山を、トッコは駆けて行きます。
 緑の中に浮かぶように描かれるつり橋を渡った先には、きっと、もう少しだけ広い世界があるのでしょう。トッコが山のくらしを楽しめるようになるのはもうすぐです。

 松橋 桜( 秋田市立中央図書館明徳館文庫 )

(令和3年5月29日秋田魁新報掲載)

 

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対象年齢 小学校低学年ぐらいから
作者名等 長崎 源之助・作/鈴木 義治・絵
出版社 岩崎書店