男鹿半島というのは観光資源豊かな場所としても知られますが、地質学の世界ではきわめて貴重な地域とされ、国内外から研究者や学生が多く訪れる場所でもあります。
ここ安田海岸(あんでんかいがん)は五里合地域の北にあり、美しい海が見られるスポットですが、一方で男鹿の大地の歴史を考察する上では非常に重要な場所とされ、男鹿半島の地質を巡るツアーを行なえば必ず訪れるといってもいい場所です。海に面し長く続く崖には、更新世(約1万~約160万年前)の間に堆積した地層が露出し、当時の環境を知ることが出来ます。
ここで見られる地層のひとつに「鮪川層(しびかわそう)」があります。この地層は更新世の中期、約10万~50万年前に堆積したといわれるもので、斜めに大きく傾いて見られるのが大きな特徴です。主に砂からなり、数十メートルの浅い海に生息した貝の化石が多く出土しています。ほかにも湖や沼であったと思われる泥層、ヒシの実の化石、亜炭(植物の炭化がやや進行したもの)からなる層などが見て取れ、当時環境の変化が大きかったことがわかります。
他にも、安田海岸には鮪川層を覆う形で存在する安田層や潟西層といった別時代の層も見られます。斜めに傾いている鮪川層に対して水平に堆積しており、この中には約9万年前にあった北海道の洞爺湖の大規模な噴火により堆積した火山灰による、ピンク色をした層も見ることが出来ます。
近年では男鹿半島および周辺地域をジオパークに申請しようという取り組みが行なわれています。ジオパークとは、地質的に貴重な遺産を含む自然公園。日本では2009年8月に3つの地域が初めて世界ジオパークに登録されました。男鹿半島において安田海岸はジオサイト(主な見所)の重要な候補地です。今後男鹿半島がジオパークに登録されれば安田海岸の重要性も広く認知されていくでしょう。
何十万年という長い時間が造りだした地層や、数千万年前には存在していなかったという日本海、意識するほど人間には計り知れない地球のスケールの大きさに圧倒されます。
■参考文献
『男鹿市史(上)』
『男鹿半島 -その自然・歴史・民俗-』
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