画像:上岩川の歴史

 三種町の上岩川(かみいわかわ)地域は、三種川に沿って発達した、15の集落によって構成されています。

 三種川の名は、「水甘くして毒なし、是長寿の種なり。山業・農稼滞りなし、是福禄の種なり。辺村昼夜交り遊び、楽の種なり」と、神仙とおぼしき老夫が評したという故事が由来です。
 
 “三種”の川は人々と土とを潤すと、明治天皇が「琴の湖」と詠んだ八郎潟に流れ込みます。湖を表す「琴」に、上岩川一帯の地形を表した「丘」を合せて、「琴丘」の旧町名で呼ばれていたこともありました。
 
 「房住山物語」は、このように美しく豊かな風土を背景にして、語り継がれてきた伝説です。房住山は沙門・円静や先達・角源が開いた霊山で、修験者が集まり、僧坊が建ち並ぶ景観がいわれになりました。物語の舞台は千年以上も昔――、坂上田村麻呂による長面三兄弟の征伐が描かれています。
 
 奥州王・藤原秀衡から寄進を受けるなど、平安中期頃までは大いに栄えた房住山も、岩川城主による焼き打ちや盗賊の放火によって、昔日の面影を次第に失っていくことになりました。民衆の信仰心が結晶となり、荒れ果てた山に三十三観音が現れるまでには、この後、数百年を待たなければなりません。
 
 初代藩主・佐竹義宣の家老が残した『梅津政景日記』からは、岩川村(当時)の山々が豊富な資源を有しており、藩が直接、経営をしていた状況がうかがえます。明治に入って森林軌道が整備されると、林業に飛躍的な発展をもたらしました。繁華街となった上岩川中心部の落合には、「上岩川銀座」の別称がつけられるほどになります。
 
 「三種読書連盟」が設立されたのは1947年のこと。上岩川小学校に赴任した工藤一正校長の提案で、30人の賛同者から寄付金を募って発足しています。終戦後の物資不足にも係わらず、蔵書は1800冊にも及び、当時のラジオや新聞の紹介で全国的な話題となりました。
 上岩川の“みやび”な気風を示すエピソードです。
平成22(2010)年4月掲載

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