画像:根子の歴史

 北秋田市根子地域には、“隠れ里”の趣があります。四方を里山に囲まれたすり鉢状の地形と、その底に民家が寄り添っている様子は、まるで人目を避けているかのようです。

 集落では、源義経の家臣・佐藤継信が逃れて拓いたという一説と、平宗盛が大池大炊盛実と名を改めて土着したのが起源であるとする一説、二つの「落人伝説」が語り継がれています。“武士舞い”とも呼ばれる勇壮な根子番楽のお囃子は、遠い昔の記憶を宿しているようです。
 
 根子は“マタギ発祥の地”としても有名です。大ムカデを退治して、正一位左志明神の位を授かった万二万三郎を始祖に仰ぎ、稲作の伝播後も狩猟文化を守り続けています。
 
 熊の胆のうは「熊胆(ゆうたん)」といって、胃腸薬・鎮静薬として重宝されてきました。同量の金と等しい値打ちがあったと云われています。これを扱って行商が始められたこと、また、集落の厳しい長男相続制のために、他所に移り住む二男三男が多かったことから、マタギ文化が広範囲に拡散されました。根子の姓と習俗が、そのまま移動したような集落も存在します。
 
 戊辰戦争では、その狙撃術が注目されました。根子から11人のマタギが招集されて、鉄砲隊が組織されました。藩から厚遇を受けて活躍を見せ、褒美に火縄銃を下賜されています。
 
 大正時代には集落の民家から魚形文刻石が出土して、県の有形文化財の指定を受けました。付近に縄文時代中期の根子遺跡があることから、同じ頃のものだと考えられています。当時は漁場があったのか、8尾の魚が刻まれていました。
 また、文化2(1805)年にこの地を訪れた菅江真澄が、「マタギ言葉」の中に「蝦夷言葉」が含まれていることを指摘しており、はるかな昔から多種な人々の行き来があったことがうかがえます。宿を借りた地主・佐藤利右衛門家ではその夜の月を祀っていたこと、マタギの頭目が古い巻物を秘蔵していたことなどは、著書の『みかべのよろひ』が伝えるところです。
 
 民族学者の折口信夫が集落を題材に取り上げてからは、学術的な関心を寄せられるようになりました。小さな空間に堆積した年月の層は、貴重なサンプルの役目を果たしています。
 根子のあまりにも独特な文化・風習は、すり鉢型の容器の中で、様々な歴史のエッセンスが溶け合って生まれたものだと言えるでしょう。
 
平成22(2010)年4月掲載

■参考文献
『阿仁町史』
『みかべのよろい』菅江真澄著

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