八峰町にある松源院の開山堂には、「武田菱」を飾った位牌が安置されています。祀られているのは武田重左衛門。甲斐武田氏の一門であり、本館城主であり、松源院の開基でもあると伝えられる戦国時代の武将です。

 重左衛門の数奇な生涯は逸話で彩られ、武田家の埋蔵金のありかを知っていたともされています。一説によると、重左衛門が檜山(現在の能代市)に辿り着いたのは天正11(1583)年のこと。天目山の戦いに敗れての逃亡でした。その後、安東実季に取り立てられて本館城を任されます。慶長10(1605)年8月18日、百姓一揆によって命を落とすまで、北方の抑えとしてこの地を守り、松源院を菩提寺にしていました。
 
 松源院の歴史は古く、仁寿3(853)年に慈覚大師によって創建されたと云われています。みこしの滝浴びで知られる白瀑神社とは起源を同じくする一院でしたが、いつしか分かれ、現在は国道101号を挟んで向かい合った形が印象的です。
 
 地震や火災に幾度か見舞われますが、名僧を輩出して発展を遂げました。19世性圓和尚はその一人。『八森由来』を記すなど、学問に優れ、八森小学校の前身となる寺子屋を開設して教師を務めました。山岡鉄舟とも親交を結び、“書”を贈られています。狩野探昇斎の「五百羅漢軸」などが寄進されたのもこの代のこと。
 
 重左衛門は甲斐、鉄舟は江戸から――、激動の時代が巻き起こす人々の行き来を、松源院は海の畔から静かに眺め、記憶しています。

平成22(2010)年4月掲載
 
■参考文献
『八森町誌』
『朝霧の斗星たち』 太田實著

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