-修験者たちの息遣いを今に-

 「三台山獅子権現舞」は、鹿角市松館地域の松館天満宮例大祭(4月25日)に奉納される神楽です。起源は、正安二年(1300年)とも治安二年(1022年)ともいわれ、この地に松館天満宮(菅原神社)が建てられたときのお祝の舞いが起源と言われています。平成5(1993)年、県の無形民俗文化財として登録されました。

4月25日の例大祭は、前日、24日の宮司宅での権現舞奉納から始まり、25日の朝、宮司宅から菅原神社へと向かいます。宮司がふるまった抹茶を飲み、再び神棚の前に集まった人々は、礼拝の後、宮司の「渡御(とぎょ)」の声と共に、楽器や供物を各々手にして外に出ます。

お囃子が響かせながら、祭りの一行は約1km先の松館天満宮を目指します。この間に奏でられるのが「渡御の曲」です。供物を持つ人々は、息が供物にかからぬように紙を口にくわえて、静かに行列は進みます。

社殿に入った一同は、神事を行った後、境内に出て大釜が据えられてある舞処の側に整列します。一人が大太鼓を打ち鳴らすと、いよいよ神楽が始まります。祭場には薦(こも)が敷かれ、舞い手が次々と交代しながら神楽を奉納していきます。曲は「権現舞の曲」に変わり、舞い手が釜の前へと進み出ます。

まずは、舞処、神域を清浄にする「御幣舞(ごへいまい)」御幣一対を両手に持って舞われます。

続いて「地舞(ぢまい)」、地の神様「地神(ぢがみ)」を鎮め、神事が滞りなく行われるように印を結んで舞われます。

そして「榊舞(さかきまい)」、紙垂(しで)という紙片を付けた榊の枝を振り、天地の常盤(永久にあること)を祈願する舞いです。

次の「青柳舞(あおやぎまい)」「扇舞(おうぎまい)」は、同じ舞い手によって舞われます。お湯立の火が勢い良く燃え上がるようにと緑色のたすきを両手に持って舞い踊ります。地元の方に聞くと、この動作が難しく、風でたすきは右に左と流され、練習の通りに動かすのは至難の業といわれます。続けて舞われる扇舞は、緑のたすきをたすき掛けにした舞い手が、今度は扇を持ち、御神徳を感謝し慶びを神にささげるのです。

舞い手が交替し、「剣舞(つるぎまい)」が行われます。日本刀を見事に操り、破邪顕正・衆生守護を表します。

いよいよ「権現舞」の登場です。獅子頭が歯を打ち鳴らし、衣を激しく舞わせます。天神様らしく「学業成就」「無病息災」などを祈願しての舞いです。権現舞で使われる獅子頭につくのは「蛇体」を表す衣、10kg以上といわれる獅子頭は、左手で保持しながら高く持ち上げられ、「コン!」「コン!」と重い音を立てて打ちおろされます。その後ろでは「尾絡役」が獅子の衣を尾のようにして振り回します。

続く「お湯立の神事」の際には、背後の境内で獅子権現の「霊力授与」が行われ、子どもたちに学業成就と無病息災を願って獅子頭を打ち鳴らします。そして、お湯が湧き上がる中、「お湯立の神事」がはじまります。曲はここで「お湯立ての曲」へと変わります。烏帽子の代わりに頭巾をかぶり、修験道の作法によって行う神事です。塩水で自分や斎場を清め、御神酒を献じた後に、「藁太総舞(わらたぶさまい)」と「作占いの儀(いやわざ)」を奉納するのです。藁太総といわれる、藁の束を使って九字護身法を切り、真言を唱えて神を勧請(かんじょう)する舞いを納めます。次に、その藁で熱湯をかき回し、その様子から作柄を占います。

長い神事の最後は「湯浴みの儀(いやわざ)」となります。神霊を表す笹束ふたつを釜に入れ、熱湯を自分の体に勢いよく掛け、さらに周囲の人々へ思い切り笹を振り回してお湯を振りまきます! 熱湯にびっくりしますが、飛び散る間に冷めるとはいえお湯はやはり熱いもの、しかし、湯立の神事の激しさ、荒々しさは、古くからの修験道をまさに「肌」で感じさせるものです。力強く笹が振られるたびに飛び散るお湯は火伏せ(火災予防)、無病息災を願い、辺りに散り、参拝者へと振りまかれます。

すべての神事が終わった後、一行は再び隊列を組み、賑々しく「渡御の曲」を奏でながら神社を後にするのです。

平成23(2011)年4月掲載

【関連リンク】産地直送ブログ
鹿角市松館地域で春を告げる伝統の権現舞(2019年掲載)

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