鹿角市三ツ矢沢地域の中新田集落は、古くから尾去沢鉱山と関わりが深く、鉱山町に売るための炭焼きが盛んに行われていました。そうした山の仕事の安全と商売繁盛を祈って、毎年2月12日に近い日曜日に行われる山の神のお祭りは、ちょっと変わった儀式が伝えられています。

 中新田のほぼ真ん中に位置する小高い山には山神社が祀られています。
鳥居から先の神域は今も女人禁制が守られる神聖な場所です。女の人が入ると、女性の神様である山の神様が嫉妬で怒ってしまうからと言われています。

朝、集落の男性が集まり神社を目指します。まだ深い雪をかき分けるようにして登ると、巨大な岩とそれに寄り添うように建てられたお堂が見えてきます。お堂の中では、ふもとから持ってきた「大山の神」と大書された掛け軸をかけ、ロウソクを灯します。お堂だけでなく、巨岩にくり抜かれた祠、そして雪に埋まって見えないもう一つの岩にもロウソクを立て、お供え物を供えて拝みます。お堂は何度も建て直されていますが、内部には昔からの棟札や奉納札が沢山あり、その歴史の古さを物語ります。

参拝を終えると、なんとご神体にお酒を飲ませるのです。ご神体を抱える人は、神様に息がかからないように、和紙を咥えながらお酒をご神体に注ぎます。この時、ご神体の顔は赤く染まるという言い伝えがあります。その後、お供え物を頂き、男たちは山を下ります。

かつては、朝から男たちが集まって谷の両側の山に陣取り、宴会の肴にするべく鳥を捕まえました。一方の山から鳥を追い出し、反対側の山に着くとまた追い出される。そうして疲れ切った鳥を捕まえる、鉄砲や弓を使わない昔からの猟でした。
 
 さて、山から下りた一行は、その年の「宿」と呼ばれる当番の家に向かいます。ここで、再び大山の神の掛け軸をかけて全員で参拝します。昔は、この宿にて直会(なおらい)を行い、朝まで宿泊しました。現在は会館に移動しての直会になります。

中新田では、直会と同じ日に集落総会が行われるのが通例になりました。様々な負担を軽減しながら行事を続けたいという集落のアイディアでした。
 会館では朝から地域のお母さんたちが腕によりをかけた料理を準備しています。総会が終わって皆で酒を酌み交わしながら美味い料理を食べる。そんな昔から変わらない光景が今も続いています。
 
平成25(2013)年6月掲載

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