にかほ市金浦地域の大竹集落に、この春、にかほ市職員を退職し、専業農家になられた方がいます!その名は今野和則さん。
私たちは、彼が市職員として地域づくり関連の部署で、地域住民のために懸命に働く姿を目にしてきました。40代後半の彼が、地元に根を下ろすことになったいきさつをたどりに、6月上旬、大竹集落を訪問しました。
上の写真は、大竹集落の入り口で撮影したもの。鳥海山の頂上が、やや雲に覆われている姿も風情がありますね。金浦地域の東、県道上郷仁賀保線沿いにある大竹集落は、すりばち状の地形になっていて、千年前の平安時代、加賀の国からきた三兄弟が祖と言われ「千年の村」と呼ばれています!
集落が近づくにつれて、日本の原風景のような里山が現れ、どこか懐かしさを感じる風景を抜けると大竹集落に入りました。
1. ロスジェネ世代(就職氷河期世代)の彼が、『専業農家』になったきっかけ

待ち合わせ場所は、集落の牧野(ぼくや)組合が管理する「大竹牧野管理センター」。約束の時間よりだいぶ早く到着したにも関わらず、市職員時代と変わらず、明るく元気な声で迎えてくれました。
今野さんは、市職員として長い期間、いろいろな自治会と関わっていくうちに、ふと「自分の地域は将来どうなるのだろう?」という疑問にかられるようになりました。そうしたことを深く考えていくようになり、「自分の集落はこのままだと将来、あれもできなくなる、こんなこともできなくなる。」と、意識し始めるようになりました。
ご実家が米作りをしていたこともあり、6年ほど前から自家用消費米の栽培をしてきました。農業に携わるようになって、他の農家の方々とも関わるようになり、その人たちと会話を交わしながら草刈りなどの農作業をするのが、何より楽しかったとか!
地域の現状を知り、将来的に現在の状態を維持できなくなるのではという危機感を抱いてきたそうです。そして何より、「これまでは人を支える仕事に携わることが多かったので、これからは自分自身の成長や挑戦にも力を入れたい。」と強く思うようになったそうです。
『自分の地域が大好き、自分の集落を見直したい!』この思いは歳を重ねるたびに強くなりました。
2. 集落の農地を残していこうと始めた取り組み
本当は娘さんが大学を卒業するまでは、現役公務員でがんばるつもりでいました。
けれども、「農業をしたい!」という願望は日増しに強くなり、昨年は気持ちが切れる限界まできていたそうです。精神的に疲弊していた時期に、草刈り作業によって田んぼや道がきれいになっていく“爽快感”や“達成感”に救われ、農業の楽しさにのめり込んでいきました 。「やりたいことをしよう。」と、農家になる時期を2年ほど早めました。


そして、この春から専業農家として新たな道を歩んでいる今野さんです。現在は、約5町3反分の田んぼを一人で作業しています。そのうち3反分を有機栽培で行っています。農業人口の減少や高齢化により、この先、栽培面積を増やしていくにしても人手不足になっていくのは想像がついていました。そこで、地元企業に協力をいただき、有機栽培に不可欠な水田内の草刈りは、時間設定ができる自動で動く除草ロボットに、さらには、田んぼの水の管理をスマートフォンに連携させて行うことができるシステムを導入することなど、スマート農業を積極的に取り入れています。
なにより、奥さまが田植えや草刈りの時には仕事を休んで協力してくれるそうで、夫婦間の会話が増え家族の絆が一層強まったとか。その話をしている時の笑顔が素敵で印象的でした。
集落ではスマート農業従事者第1号です。昔から農業に従事している先輩の方々は、写真のような機械を見て不思議そうな顔をするそうですが、自分がさきがけとなって、少人数でも農業に従事できることを広めたいと願っているようでした。
さらには、高齢農家からの農地の引き受けを見据え、将来的には農業を法人化して会社組織として運営していくことを目指しています 。また、農家の子ども世代が農業を継がないケースが多いため、農地が荒れるのを防ぐ目的で、農地を借り受けるのではなく、「作業受託」として引き受ける仕組みも考えています。
先を見据えていろいろと試行錯誤しながら、他のことにもチャレンジしたい気持ちもあるようです。根底には「最低限、地域の今の状態を維持していきたい。それは自分のエゴかもしれないし、他の人はそうは思っていないかもしれない。でも、やっぱりここが大好きだから!」という強い思いがあるようです。
3. 農業の維持だけじゃない、集落の伝統芸能の復活にも尽力

大竹集落は、地域の運動会が30年以上継続して行われているなど、地域のコミュニティが活発な地域のようです。また、伝統芸能の獅子舞も存続しています。鳥海山大物忌(おおものいみ)神社(山形県遊佐町)の「吹浦(ふくら)流」を受け継ぐ女獅子と伝えられている獅子舞ですが、実は、一度、担い手がいなくなり、神社祭典の際には獅子舞奉納ができなくなってしまいました。子どもの頃から、獅子舞奉納に憧れを抱いていた今野さん世代の住民は、何とか復活させたいと、約10年前に同じ流れをくむ獅子舞を奉納する他地域の方から指導を仰いだり、伝承元の山形県遊佐町の神社の映像を参考にしたりして、獅子舞を復活させました。 今では、担い手が不足している他地域に借り出されて、獅子舞奉納をしているそうですよ。
(上の写真は今野さんから提供していただきました。)


そして、毎年、6月第一日曜日は地元の神社祭典にて獅子舞が奉納され、集落を練り歩く伝統行事が行われています。
今年も6月7日(日曜日)、地域の白山神社にて祭典が行われました。祭典の様子の写真は、全て今野さんから提供いただきました。
みこしを担いで町内を練り歩く様子は、日本の原風景を醸し出しているようです。
4. 未来へ向けて

「20代の頃は、『農家になんて絶対にならない!』と思っていました。今はここで農作業している時間が一番、心がやすらぎます。7月に入り、もう少し稲が伸びてきて風になびく様子を、風を感じながら黙って見ている時は至福の時間です。毎日、毎日がとっても心地いい!!」と今野さん。
上の写真は同じにかほ市でも、もう少し標高が高い釜ケ台集落で撮影したものですが、今野さんのいう“稲が伸びて風になびく様子”とは、こんな風景のことではないでしょうか。
今野さんはこの先、米栽培だけでなく、アスパラガスの生産にも取り組みたい、そして大竹集落といえば「いちじく」の産地で有名ですが、いちじく農家の担い手が減少していることも懸念していて、いずれは取り組みたいと考えているそうです。(現在も、収穫の時期など、いちじく農家の手伝いはしています。)
“集落が大好き”、“今は自分のことも大好き”な今野さんの今後の活躍が楽しみですね。大竹集落の農地が末永く守られていくことをお祈りします!
以上、にかほ市大竹集落からお届けしました!