おいしいお話

曲げわっぱがつくる、おいしい食卓

2020年03月27日

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秋田県の伝統的工芸品「大館おおだて曲げわっぱ」。美しい木目と温かみのあるフォルムが特徴で、特におひつや弁当箱は、購入するのに数ヵ月待つほどの人気ぶり。

そして、この曲げわっぱ、見た目の美しさはさることながら、実用性の面でも、ごはんをおいしくいただくために欠かせないものだといいます。

大館市の柴田慶信しばたよしのぶ商店を訪ね、2代目の柴田昌正よしまささんにお話を伺いました。

 

ごはんをおいしくする道具

2代目の柴田昌正さんは24歳から工房に携わっている。柴田慶信商店は現在、大館市以外に、東京(日本橋、浅草)にも店舗を持つ。

曲げわっぱとごはんは、切っても切れない縁。というのも、曲げわっぱは、ごはんを「美味しく蒸らす」道具なんです。

素材である天然杉が、余分な水分を吸ってくれるので、炊きあがったごはんをお櫃や弁当箱に移せば、冷めてもべちゃっとしない。もっちり美味しい食感を保ってくれるんですね。

でも、私がこの世界に入ったばかりの20数年前は、「今どき、こんなの使う人いるの?」と言われることもありました。

当時はプラスチックの弁当箱が主流でした。食文化としても、家で食べるよりも外食をするようになったり、和食より洋食が好まれるようになっていたんですね。

たしかに、プラスチックには敵わない部分が、曲げわっぱにはいっぱいあります。

プラスチックのほうが手入れが楽ですし、電子レンジにもかけられるし、値段も安価。だから、決してプラスチックが悪いというわけではないんですよね。それぞれにいいところがある。あとは「使う人がどう選ぶか?」というところですよね。

100点満点のものは作れないけれど、何かに特化して良いものは作れるので、そこを伸ばしてものづくりしていく。そういう意味で、うちは素材の本来の性質が活きるように、無塗装にこだわってやってきています。

 

SNSの力

今のように曲げわっぱの認知度を上げてくれたのは、メディアの力なんです。

10~15年くらい前から、「エコ」や「丁寧な暮らし」をテーマにした雑誌などに取り上げてもらえるようになりました。そして、工芸品とは無縁に感じるかもしれませんが、SNSの力が大きいんです。

百貨店の催事に出展しても、昔は、女性なら、バッグとか、財布とか、ストールとか、人前で見てもらえるようなものが売れていたんですよ。

でも、SNSが使われるようになるにつれて、「家の中でどんな暮らしをしている」「普段こんな道具を使っている」というような、これまではなかなか外には見えなかったものが、発信されるようになったんですね。

昔からある「伝統的工芸品」という安心感や信用もあったと思いますが、高価で飾っておくようなものでなく、「ふつうの人が身近に使える工芸品」として、30~50代の働き盛りの人たちが受け入れてくれました。

昔は「生きるため」に食べていたのが、食べることやその道具までもが「喜び」や「豊かさ」に変わってきたんですよね。

そうして売り上げが伸びてきたことで「曲げわっぱがブームだね」って言われるようにもなりました。ありがたいことではあるんですが、うちとしては「ブームじゃなくムーブにしなきゃいけない」と思ってやってきました。

おかげさまで、最近は文化として定着してきています。それは、素材の良いところを活かして、工程にも手を抜かずにやってきたからだと思っています。

朝礼でみんなに言うのは、「私たちは、年間で何千個と作る訳だけれど、お客さんにとっては1個なんだよ」ということ。その1個を大事に作って届けることを心がけています。

 

曲げわっぱのある食卓

こちらは、我が家で18年使っているお櫃です。うちではだいたい、夜に炊いたごはんをお櫃に移して、朝はそこからお弁当用によそったり、朝ごはんとして食べたりもしています。日々、洗っていくので、すり減って木目が浮かび上がって、蒸気で木が反ってきています。これは、本物の素材を使っている証拠です。

お櫃が食卓にあると、おかわりしたいときにも、炊飯器まで立っていかなくてもいい。だから、顔を見て、家族から家族にごはんを渡すことができるんですよね。

毎日のお弁当もそうですが、曲げわっぱを使う食事を通して、家族が見えてくるんですよね。食べ物があるだけの食事だと「おいしい」で終わるところが、良い器に乗っているだけで、会話が弾んで、幸せ度が上がって、その「おいしい」が倍増すると思うんですよ。

これからは、外国の方の暮らしに合わせてお盆やトレイなども考えていきたいと思っています。

日本では、家族も少なくなってきたり、住宅事情もあって、いろいろなものがコンパクトになっていますが、外国向けのものとなると、大きい。大きい器って、大家族というイメージもあって、幸せの象徴だとも思うんですよ。

そういうことを想像してものを作ると面白いですね。一つのフォルムだけにこだわるのではなくて、この人がこういう場で使ったときに……というシチュエーションを想像しながらものづくりをしていきたいと思っています。

 

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