おいしいお話

東京都 目白 ぞろ芽 自分の味を追い求めて出会ったサキホコレ

2025年05月20日

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自分の味を追い求めて出会ったサキホコレ


text by Sawako Kimijima / photographs by Masahiro Goda

 

和食の代表格であるすしやうなぎなどの職人仕事を語る時、もっぱら言及されてきたのは魚の扱いや仕立ての技術でした。うなぎの「串打ち3年、裂き8年、焼き一生」が良い例でしょう。
すしであれば、大間のマグロ、氷見のブリといったすしダネの産地、ヅケや炙りなどの仕立て方に光が当たります。すし職人の多くが、握りにおける重要度として「酢飯8割・タネ2割」とか「酢飯7割・タネ3割」、つまり「酢飯のほうが大事」と言うにもかかわらず、です。というのも、食べ手の興味がどうしても魚に向いてしまうからなのですが、最近、変化が起きています。ここ数年、赤酢の酢飯、いわゆる「赤シャリ」がトレンドということもあって、俄然、酢飯がフォーカスされるようになってきたのです。

うなぎの世界でもお米がフォーカスされていく兆しを感じさせるお店が、東京・目白にあります。ミシュラン掲載店の「目白 ぞろ芽」です。

 

素材を際立たせる味づくりの姿勢

店主・岡田芳昭(よしあき)さんは、創業150年を超えるうなぎの老舗、東京・神楽坂「志満金(しまきん)」で27年にわたって腕を磨いた筋金入りのうなぎ職人。独立開業にあたって、岡田さんには心に決めたことがありました。
それは「自分の味を追求すること」。

岡田芳昭さん。東京きってのうなぎの老舗で27年研鑽を積んで、2018年7月に現店を開いた。


JR山手線目白駅から徒歩1分というロケーション。写真左手の石段を上がるとそこが目白駅だ。

開業から4年で『ミシュランガイド東京』にビブグルマンとして掲載。以来3年連続で掲載中。


うなぎは静岡県焼津の「共水うなぎ」、米はサキホコレを使用。納得のいく素材を追い求め続けて、サキホコレにたどり着いた。

 

伝統を重んじるうなぎの世界では、職人たちは修業先の仕事を踏襲する傾向にあります。独立に際しても、タレを修業店から分けてもらい、それをベースとする人も少なくないとか。

しかし、岡田さんは「自分の味を一から作り上げよう」と決心しました。そして、開店準備期間中、自分の味を実現するための食材探しに時間を割きました。うなぎを探し、米を探し、タレ作りに励む中で、うなぎは運よく静岡県焼津市の「共水うなぎ」と出会います。タレはヤマサ醤油に愛知県の杉浦味淋「愛櫻(あいざくら)」の3年熟成と1年熟成のブレンドを煮詰めて配合。上白糖やザラメなどの砂糖は使わず、すっきりとキレの良いタレに仕上げたのでした。

「継ぎ足しを重ねて店の味をつくり上げていくように、蒲焼きはタレに負うところが大きいと言えます。反面、一歩間違うと、全体がタレの味に支配されてしまう。私は、うなぎそのものの味わい、ごはんの味わい、それぞれがきちんと立ち上がるようにしたかった」
うなぎ、米、タレ、3つの要素が並び立つ味づくりを目指したのです。

「共水うなぎは、身の旨味や甘味が強くて、天然うなぎに近い持ち味」と岡田さん。「牛肉にたとえればサシより赤身が強い、そんなイメージです」。白焼きの後で20分ほど蒸してから付け焼きへ。


一から作り上げたタレ。「開業当初は『薄い』とおっしゃるお客様もいましたが、最近は自分でも深みを増してきたなと感じます」


備長炭を使用。炭の配置やうちわの扇ぎ方で温度調節を行う、まさに職人仕事。付け焼きは5分程度と短く、「焼くというより炙る感覚」。

 

「サキホコレは文句なしの優等生」

うなぎが決まり、タレが出来上がる中で、最後まで決まらなかったのが米でした。決定打のないまま、岡田さんは開業。
「ひとめぼれ、コシヒカリ、ヒノヒカリ、いろいろ使ってみた後に、2019年からはあきたこまちに落ち着いたものの、納得したわけではありませんでした。ある時、テレビを見ていたら、サキホコレという米が登場したという。コシヒカリを超える食味を目指したと聞き、興味をそそられたんです」

取扱店を探し出し、取り寄せて食べてみて、「これだ!」。6年にわたる米探しがついに決着した瞬間でした。

うなぎが焼き上がるタイミングを見計らって、お重にごはんをよそう。うなぎやタレを受け止めるごはんの役割は大きい。


ごはんにかけるタレは、付け焼きのタレとは別(配合は同じ)に用意。うなぎの脂が溶け出していないさらりとしたタレをほぼまんべんなくかける。

これだけで確実においしい!

 

すし界では「赤シャリ」がトレンドになるのと並行して、米選びにも変化が起きています。かつては「古米がいい」とか「あっさり系のササニシキがいい」と言われたものですが、今、すし職人たちが選ぶのは「純粋に旨い米」「自分好みの米」「自分の握りに合う米」など、より味優先で、かつ多様化しています。

では、うなぎ職人たちが求める米とは、どんな米なのでしょうか?
「うなぎ屋の場合、ごはんだけ食べておいしいことが基本です。定食を召し上がるお客様が一定数いらっしゃるから」。岡田さんの肌感覚では「コシヒカリを使う店が多いのではないか」とのこと。「白米としておいしい上で、うな重やうな丼にした時に、タレをかけてもべとつかず、粒立ちが良く、ひと粒ひと粒の張りと弾力がしっかり保たれ、タレやうなぎの味にも負けない旨味がある、それが理想。サキホコレは文句なしの優等生ですよ」。

 

米で個性を出し、米で差別化する時代

すしにせよ、うなぎにせよ、職人たちが魚と同じくらい米に意識を傾け、自分の価値観で米選びをするようになった背景には、「米で差別化しよう」との意図も感じられます。もはや魚にこだわるのは当たり前。むしろ魚では差が出にくくなっている。ならば、米にフォーカスすることで、ステップアップを図り、個性を出していこう。
うなぎ、米、タレが並び立つ「目白 ぞろ芽」の仕事はまさに好例でしょう。

「目白ぞろ芽」では昼夜2回、2升ずつ炊飯器で炊いています。水量は米と同量よりは少し少なめ、硬めの炊き加減を狙います。「タレをかけても、口の中でほぐれる感じを大切にしている」のだとか。週に25~30kg、月に100~120kgという量を消費しますが、「ありがたいことに仕入れ先の東京・上落合『榊原米穀店(さかきばらべいこくてん)』さんが、切らさないように確保してくれています」。


うなぎ、タレ、ごはん、主たる構成要素はたった3つ。シンプルだからこそ、素材の質が仕上がりを左右する。

店で作りたてを食べる人が圧倒的に多いが、テイクアウトニーズもある。「サキホコレは冷めてもおいしく、ダマにならないからいい」と岡田さん。

うなぎも米も厳選し、あっさりしたタレでそれらを生かす。お客さんからは「最後まで食べ飽きない」「食後が軽やか」と言われるそうだ。

 

「お米屋さんが時々、新しい米のサンプルをくれるので試してみるけれど、サキホコレを超える米には出会わないですね」と、岡田さんがサキホコレに寄せる信頼は絶大です。

自分の腕と舌を信じて、うなぎを選び、タレを作り、それ以上の熱量で選んだ米がサキホコレ。自身の料理に最適の米を見極めることで、ごはんを縁の下の力持ちではなく、うなぎと対等のポジションに位置付けました。そして、そのことが料理のクオリティそのものを向上させています。岡田さんのような職人はこれからもっと増えてくる予感がします。

(ショップデータ)
目白 ぞろ芽
東京都豊島区目白3-3-1 目白スクエアビル B1F
TEL.03-6908-3653
11:00~14:00、17:00~22:00
水曜休
https://www.instagram.com/mejirozorome/

榊原米穀店
東京都新宿区上落合2-6-6
TEL.03-3361-6869
9:00~20:00、土曜9:00~18:00
日曜、祝日休
https://www.instagram.com/sakakibarabeikokuten/

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