おいしいお話
おいしいお話
2022年02月14日
令和4年度の「サキホコレ」本格デビューに向けて、令和2、3年の2期にわたり行われてきた先行作付。秋田県では、高品質なサキホコレを供給するため、以下のような生産体制をとっています。
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1.作付地域を限定
「サキホコレ」は成熟期が遅い晩生種であることから、その優れた外観・食味などの品種特性を安定的に発揮できるよう、気象条件などにより選定した「作付推奨地域」に作付を限定します。
2.品質・出荷基準を設定
おいしく、高品質なお米だけをお届けするため、次の品質・ 出荷基準を設定しています。
3.生産者を限定
高品質・良食味なお米の生産実績があるなど、一定の要件をクリアした「生産者」と品質・出荷基準のチェック体制が整った「集荷業者」が組織する「生産団体」が生産を担います。
4.安全・安心の栽培方法
安全・安心や環境に配慮し、農薬の使用を半減した栽培(延べ使用成分回数※:20成分回数→10成分回数以下)を標準とします。
※使用した農薬に含まれる有効成分の延べ使用回数
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これらに基づいた令和3年産の出荷が終わり、先行販売最中の12月。この年の作付に携わった4組のサキホコレ生産者さんにお集まりいただき、地域も規模も異なる立場から、実際に取り組んだ感想を伺いました。
【大潟村・清塚さん】
大潟村より、清塚淳一さん、砂恵子さんご夫妻。水稲を中心に、砂恵子さんの父との3人で営農している。
清塚淳一さん
新しい品種であり、期待されている品種。やっぱり、やるならば最初から……と思って手を挙げました。
農薬の使用成分回数の制限や品質・出荷基準、土壌診断なども求められることに抵抗があって、手を挙げない農家も多いんですが、実際やってみると、当たり前のことをするだけだったなと感じています。
清塚淳一さん
うちは今年から作付しました。農協の先生の指導を仰ぎながらではありますが、もともと、あきたこまちの減減米(減農薬・減化学肥料米)もやってきていたので、それと比較する意味で、全く同じ条件でやってみました。
清塚淳一さん
育苗もあきたこまちと並べて行いましたが、発育が非常に遅かった。芽出しはあきたこまちが24時間のところ、サキホコレは36時間かかりました。
最終的に、あきたこまちは歩留まり(*1)が69〜70%だったのに対して、サキホコレは55〜56%。サキホコレはこまちより歩留まりの良い品種と聞いていましたが、9月頭の寒さやその前の高温が影響したのかもしれませんね。
*1 歩留まり=収穫した籾を選別して、実際に得られた商品となる籾の比率
【湯沢市・髙橋さん】
湯沢市より、髙橋征志さん。個人で水稲や大豆栽培をしながら、農業法人を立ち上げ長ネギの栽培にも力を入れている。全農「美味しい“あきたこまち”コンテスト」では2019年に最優秀賞受賞の実績も。
髙橋さん
うちは、中山間地ということもあって、ほかの地域よりも量が穫れないし作業効率もそこまで良くないので、量を上げることよりも、「うまい米を作る」ということに特化しないと生き残っていけません。なので、あきたこまちでは有機米などで付加価値を持たせてきました。
「地力」というコンセプトを持つサキホコレでも、その経験を生かして、特別栽培米(*2)の作付をしています。
*2特別栽培米=生産された地域で慣行的に行われている節減対象農薬及び化学肥料の使用状況に比べて、節減対象農薬の使用成分回数が50%以下、化学肥料の窒素成分量が50%以下、で栽培された米。
髙橋さん
栽培に関しては、これまでの有機米の流れがあったので、サキホコレの作付の条件に関しても抵抗なくやれましたね。
清塚さん同様、今年は歩留まりが良くなかったんですが、うちは去年も作付していて、去年はあきたこまちに比べると2倍くらい良かった。でも、去年は粒にバラつきがあったのですが、今年は比較的粒が揃っていたり……どういうことが原因なのかはまだわかりませんね。
【横手市・柴田さん】
横手市より、柴田康孝さん。父、息子夫婦の家族で営農。水稲とともに果樹なども手掛けながら、集落全体の水稲も管理している。
柴田さん
「自分たちが作ったものは地元の人に食べてもらいたい」という思いから、地域の仲間と直売所を立ち上げて、去年までそこの会長をやってきました。サキホコレに取り組んだのは今年から。JA秋田ふるさとでは稲作部長をやっていたこともあって、いち早く声をかけてもらいました。
柴田さん
生育状況としては、芽出しが非常に悪くて「こんなに悪いのは見たことがない、何か失敗したかな?」というくらいでした。でも田植えしてからは良い感じに育って、「田んぼに入れば元気になる品種なのかな?」と思いましたね。
出穂もこまちより5日くらい遅かった。おかげで、あきたこまちはカメムシの被害が多いのに、サキホコレはほとんどありませんでした。そして、みなさんと違って、うちは歩留まりがしこたま(非常に)良くて、くず米はほとんど出ませんでしたね。
【大仙市・齊藤さん】
大仙市より、齊藤拓(たくま)さん。水稲を中心に栽培しており、家族とともに行う33haのほか地域の法人でも大規模を手がけている。
齊藤さん
うちは今年から作付しましたが、まだサキホコレという名前になる前の「秋系821」の頃から3〜4年くらい、作付したいと手を挙げ続けてきました。
全国でたくさんのブランド米が生まれている中、全国で戦える米を作れるのか、農家として勝負してみたいと思ったんですよね。
齊藤さん
うちもみなさん同様、芽出しには苦戦しましたが、田んぼに出してからは、あきたこまちよりは生育が良い印象でしたね。ただ、出穂してから花が咲くまで1週間から10日くらいかかって「あれ〜?花咲かないな」という状況が続いて。まだまだ未知の品種だと思いました。
それでも、概ねマニュアルどおりに生育してくれて、うちは歩留まりもそんなに悪い印象はなくて、ひと安心しています。
【もっと厳しく? 品質・出荷基準をどう見る】
―サキホコレの生産にあたっての、品質や出荷、土づくりなどの基準はどう感じられましたか?
清塚淳一さん
大潟村では、砂地の田んぼのほうがタンパクが出にくいことから、うちでは砂地に作付したので問題ありませんでしたね。土づくりとしても、今までもあきたこまちで減減米をやってきているので、それと同様にやっていけば大丈夫という印象でした。
髙橋さん
もともとキツイ制約のもとでやってきているので、サキホコレを全国のトップブランドにしていくというわりには、ちょっと基準が低いようにも感じました。
知り合いの農家には「手を挙げようと思ったけれどこの基準では無理」というところもあったようですが、トップを狙うならそれでいいんじゃないかと思いますね。
齊藤さん
私も、基準はもっと厳しくていいと思います。これから、県で定めた基準をベースに各農協が独自の上乗せをしていくことになると思います。JA秋田おばこでは、地域循環を目指してサキホコレの土に、地元の酒蔵の酒粕を混ぜたりしようかとも考えていますし。
そういった地域独自の進化もしていくことを、どうブランド化につなげるかは気になりますね。
それと、栽培エリアについては「選ばれた地域、選ばれた農家」ということが価値になっていくと思います。
実際にサキホコレを試食したのち、さらにお話を伺っていきます。
清塚淳一さん
大潟村であきたこまちを作っている人たちにもうちのサキホコレを食べてみてもらったら、みなさん美味しいって言ってくださいましたね。
髙橋さん
てりツヤがすごいですよね! それに、冷めてからも美味しいんですよ。
齊藤さん
香りも上品。粘りはありつつ、米の粒がしっかりしているので、しつこさのない甘み。
口に入れたときには豊潤さがあるんですが、飲み込むときにはキレがある。
柴田さん
でも、ラジオで「物足りなかった、粘りがなかった」という声も聞きました。
髙橋さん
あきたこまちを食べ続けてきた秋田県民からすると、甘みや粘りの特徴に慣れているので、サキホコレを物足りないと感じる人もいるかもしれませんね。
齊藤さん
炊飯器や炊き方で味も粘りも変わりますよね。消費者へ炊き方や研ぎ方の指導も徹底していくことでクオリティを保つことに繋がりますよね。そういう情報を発信するなど、栽培以外にも大事なことがあるように感じます。
柴田さん
サキホコレは、収量を上げるよりも美味しく作ることを目指すものになっていってほしいですよね。
清塚淳一さん
食味を第一に目指して高級路線のものを作るのか、生産量を上げて誰もが買えるものにしていくのか、そのあたりの考え方はどうなんでしょうか?
―サキホコレは、競争の激しい高級米市場を狙っているので、生産量は最大でも県の主食用米の10%を超えないようにとは考えています。
また、サキホコレがデビューしても、生産量の多いあきたこまちが主力品種なので、サキホコレは高級路線、あきたこまちはリーズナブルといった棲み分けをしていくことになります。
清塚淳一さん
それならば、もっと基準を厳しくしても良さそうですよね。
【本格作付へ向けて】
清塚淳一さん
周囲からの「美味しい」という反応がモチベーションになっていますし、誰もが作れる米ではない、それを作らせてもらえているという名誉な部分もあります。期待に応えられるように頑張っていこうと思います。
清塚砂恵子さん
関東にいる妹が知り合いにお裾分けしたそうなんですが、特に受験生のお宅で喜ばれたそうなんですね。サキホコレという名前が縁起がいいから。受験に限らず、スポーツなどにも絡めて宣伝していくのも良いように思いますね。
髙橋さん
これまでどおり、美味しい米を目指していくばかりですが、県全体として食味の向上を目指すのであれば、数値化したり、コンテストをしたりしながら底上げしていくこともあってもいいかなと思いました。
柴田さん
私は、県の担当者や全農の方とも対面する機会が多くあります。「農家さん、がんばってください」と言われるたびに「みなさんも協力をお願いします」ということを言ってきています。農家が求められるだけでなく、一緒に作っていくことをこれからも言い続けていきたと思います。
齊藤さん
なんてったって米どころ。サキホコレが、これからの若い農家の意欲に繋がれば……そういう期待もしています。
秋田にはあきたこまちしかなかったように思われがちですが、サキホコレを通して秋田のイメージが変わっていくといいです。