太平山からK2、そしてシリアへ 開高健ノンフィクション賞受賞作品
秋田市出身のドキュメンタリー写真家で登山家の小松由佳さん(42歳)が書いた著作「シリアの家族」が、11月26日(水)に発売されました。「シリアの家族」は今年7月、第23回開高健ノンフィクション賞を受賞しています。
小松さんの祖父母は、太平山の麓でコメ農家を営んでいました。田んぼの向こうに青く聳えていた太平山に小松さんが初めて登り山頂から下を見たら、町が雲海の足元に見えたことに衝撃を受け登山の道に入ります。東海大に進学してトレーニングを続け2006年、「ヒマラヤK2(8,611m)」登頂に成功します。頂上から地球が丸く空は黒く見えたと言っています。K2登頂は日本人女性で初めてで、植村直己冒険賞と秋田県民栄誉賞を受賞しました。4人に一人は命を落とすという非情な山、下山中に8200m地点で夜、ビバークしました。零下20度、酸素濃度が地上の3分の1という死の危険を乗り越えたことが人生の分岐点になりました。
モンゴル、中東と旅を続け、シリアで遊牧民ベドウィンと出会います。遺跡のあるパルミラで小松さんが出会ったのは、3世代60人の魅力的な大家族アブドュル・ラティーフ一家です。100頭近いラクダを識別しながら放牧し、オリーブやザクロの果樹園を管理したりサンドイッチ屋を経営しています。しかし、一家はアサド政権の弾圧に巻き込まれ難民としてゴムボートで命の危険を冒しながら隣国に逃れて行きます。この間、小松さんは一家16人兄弟の末っ子、ラドワンさんと結婚します。現在は9歳と7歳になった長男次男を1歳の時から背負って取材を続けました。昨年アサド政権が崩壊し、夫・ラドワンさんは13年ぶりに祖国へ一時帰国し、爆撃で崩れ落ち廃虚になった自宅を目の当たりにします。現在、日本で一緒に暮らす小松さんは、夫のラドワンさんが、やがて故郷のシリア・パルミラに戻るだろうと言っています。ラドワンさんの兄たちも戻って、地雷の危険の中で復興作業を始めているからです。ラドワンさんが彼らしく生きるのは、やはり故郷だからです。
小松さんが取材撮影した写真は12月17日(水)から1月13日(火)まで、「故郷へ帰還するシリア難民」として、東京の「ワセダギャラリー」で展示されます。小松さんをインタビューしたのは同じく秋田生まれのディレクター・佐治真規子さん、11月20日(木)午前4時からNHKラジオ第1、ラジオ深夜便で放送されました。
