-開発ストーリー-“日本人の心に響くおいしさ”を求めて
開発経緯
平成26年度に「秋田米新品種開発事業」がスタート
お米の消費量が年々減少する一方、全国ではブランド米が続々と誕生し、産地間競争が激化。さらに、食生活の多様化により、お米も味や食感などにこだわって選ぶ嗜好品の時代に移り変わる中、長年「あきたこまち」を主力とし、全国屈指の米どころである秋田県においても、県産米の新たな顔となり、産地を牽引していくことができる極めて食味の高い品種の開発が急務となっていました。
開発コンセプト
食味を徹底的に追求
新品種の開発において、何より重視されたのは「食味の良さ」でした。
開発コンセプトは、日本人が好むお米の代表格「コシヒカリ」を食味で上回ること。
一方で、収量、耐病性などの栽培特性については、“「あきたこまち」並以上”を目指すけれども、食味特性が極めて優れている場合は、栽培特性に弱点があっても選抜することとされました。
これまでの秋田米にはない高い食味を追求した開発が進められることになったのです。
交配
挑戦の種
新品種の開発事業は、平成22年に交配され、事業開始時点では4世代目となっていた800の系統の中から、良食味の系統を選抜していく作業からスタートしました。
秋系821(サキホコレ)の交配では、父親に、大粒・良食味で、交配母本としての評価も高かった県オリジナル品種の「
つぶぞろい」を、母親には、愛知県が育成した良食味で、いもち病にも極めて強い「中部132号」を採用しています。
県農業試験場では、子となる品種が秋田の冷涼な気候に適応するよう、東北地域内の品種同士を掛け合わせることが一般的でした。しかし、それでは大幅な食味の向上は望めないと考えた開発担当者は、栽培特性上のリスクはあったとしても、あえて他の地域で育成された良食味系統の「中部132号」を掛け合わせることを選択したのです。
交配イメージ
試験栽培イメージ
選抜
日本人の心に響くおいしさを求めて
県農業試験場では、「コシヒカリ」を外観・香り・味などの食味で上回ることを目標に、毎年800サンプルもの食味分析を5年間にわたり繰り返しました。
同時に、外部の専門機関やお米マイスターによる食味への客観的な評価も踏まえながら、安定的に高い食味を達成できる系統を選ぶことに力を注ぎました。
「コシヒカリ」の背中を追う一方で、開発担当者の心には、30年以上にわたり県民に愛され、全国において高い評価を得てきた「あきたこまち」の食味を明らかに超えなければ、秋田では認めてもらうことはできないという思いがありました。
日本で最も食され、”おいしいお米”のひとつの指標である「コシヒカリ」。そして「コシヒカリ」を親に持ち、バランスが良く、優れた食味で、全国の食卓に欠かせないお米となった「あきたこまち」。
この2大品種と正面から向き合い、それを超えていくということは、まさに、「日本人の心に響くおいしさ」とは何かを追求することでもあったのです。
食味試験イメージ
新品種候補の決定
次世代の秋田米
平成29年には、新品種の候補が5系統まで絞り込まれ、選考は最終局面に差し掛かっていました。ここまで厳しい選抜を勝ち抜いてきたいずれの系統も甲乙付けがたいレベルにありましたが、その中にあって食味の良さで一歩リードしていたのが秋系821(サキホコレ)でした。
「コシヒカリ」や「あきたこまち」が持つ「日本人が好む食味」を持ちながらも、食べる前から「おいしい」と思わせるツヤやかで食欲をそそる外観、これまでの秋田米にはない粒立ちの良い食感、かむほどに広がる甘さと、後を引く豊かな風味。
秋系821(サキホコレ)は、次世代を担う最上位品種にふさわしい食味を備えていました。
さらに、栽培特性においても、母親である「中部132号」が持ついもち病に対する耐性を引き継いでいたほか、栽培試験における地道な選抜により、高温による品質低下が少なく、冷害にも強いという、「あきたこまち」以上の優れた特性も獲得していたのです。
交配から9年目の平成31年3月、秋系821(サキホコレ)は、県、関係農業団体等で構成する「秋田米新品種デビュー推進会議」において、新品種候補に決定されました。