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風土を楽しむ

映画のロケ地「三平の家」

画像:映画のロケ地「三平の家」

-人々の思い出がよみがえる懐かしい空間-

 目の前に広がるのどかな田園風景を、茅葺き屋根の民家が丘の上から眺めています。映画『釣りキチ三平』に登場した「三平の家」――、築百年にして、今、にわかに注目を集めている「北ノ又」の古くて新しい観光スポットです。
 
 入場は無料。管理人を務め、この家の持ち主でもある近野俊一さんが、囲炉裏に火を入れ、往時のとおりに再現された空間へと迎え入れてくださいます。
 出演者にまつわるエピソードはもちろん、大自然に育まれた“三平少年”そのままの子供時代を過ごした近野さんの体験談が伺えるのも大きな魅力の一つ――。
 
 現在は潟上市にお住まいの近野さんですが、遠路やって来る観光客をもてなそうと、休日や勤務期間以外にもこちらに通い詰めています。近野さんをそうまで熱心にさせるのは、昔ながらの外観・内装に手を触れて、懐かしさのあまり、涙を浮かべて感動される方も多く、そうした共有の記憶を分かち合えるのが「嬉しい」から――、「一期一会の出会い」への感謝の情によるとのことでした。
 
 “赤い糸”の結びつきと近野さんは表現されていますが、ロケ地に決定するまでの経緯が運命的でした。選定が難航して頭を抱える滝田洋二郎監督に、最後の候補地として原作者の矢口高雄さん本人が推薦したところ、一目見るなり、「ここなんだよ、ここ!」と映画での使用を即断されたそうです。矢口さんは自身が出演した映画『イタズ-熊-』の撮影で過去に北ノ又集落を訪れていて、「あの景観が保存されていれば最高の場所だ」という確信を持っていました。
 矢口さんの学生時代、下宿の3軒向こうには近野さんの実家があり、数十年来の顔見知りであったというのも興味深い偶然です。
 
 オファーも絶妙なタイミングとなりました。映画の話が持ち込まれたのは近野さんの定年退職の年にあたります。それ以前では仕事の都合で開放するのが難しく、また、取り壊し間近の予定であったため、依頼の電話があと数日遅れていれば「三平の家」は存在していませんでした。
 
 こうした幾つもの奇縁が重なり、近野さん宅がスクリーンに映し出されることになったのでした。長い年月を経なければ出ない箪笥や柱の独特な風合いが、映像の中で重みと味わいを醸し出しています。
 
 2009年の10月、五城目町で“秋田の再生”を語るシンポジウムが開催されました。『三平』を描いた“二人のアーティスト”として滝田監督と共に招かれた矢口さんは、ご自身にとっての「田舎」を“心のシャワー・ルーム”のような存在だとお話されていました。「心の疲れと垢を、洗い流してくれる気がする――」と。
 麦わら帽子の三平が今にも現れそうな古民家で、あなたもそんな体験をしてみませんか?

映画「釣りキチ三平」のロケで三平の家となった茅葺民家

2010年4月掲載

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