画像:鮪川のナマハゲ

-若者たちに受け継がれる「怖さの秘密」-

 大みそかの夜、鮪川の子どもたちは恐怖に震えあがります。

「泣く子はいねがぁー!」で説明不要なほど有名な男鹿の「ナマハゲ」。県内では、真山にある真山神社、赤神神社などのナマハゲが有名ですが、地区ごとの神社から出発するのは、ここ鮪川でも変わりありません。

 鮪川でもまた古くからのナマハゲが行われています。使われるお面は鮪川自治会館の玄関に飾られている一刀彫の見事なもの、かつてはトタンで作られた味のあるものも使っていたそうです。

年も押し迫った12月の下旬の休日、鮪川の若者たちは会館に集まり、ナマハゲの衣装である「ケラ」を作ります。

 そして31日夕方、自治会館に集まった若者たちは、お面をもって集落のお堂(十王堂)へと向かいます。通称「盛り(森?)っこの堂(ど)っこ」と呼ばれる、集落のほぼ真ん中の小高い丘に置かれたお堂へと入ります。お面と神様を丁寧に拝むと、いよいよ会館でナマハゲへの変身です。ケラを着こみ、包丁や桶、袋を手にします。最後はお面ですが、家の前に行くまでは被りません。

 2010年の大みそかにまず始めに回ったのが三本松集落です。この集落でのなまはげはなんと30年ぶりの復活だそうです。鮪川集落とは昔から深いつながりのある集落のため、今回「助っ人」として鮪川のナマハゲが訪問しました。三軒ほど回るといよいよ鮪川集落の中を回っていきます。

 ナマハゲの訪問は、まず先ぶれが家を訪問するところから始まります。ナマハゲが訪問してもいいか、不幸などがあった家ではないかの確認です。

 家人が入っていいと言えば、いよいよナマハゲが入ります。「おめでとうございます!」と勢いよく入った二匹の鬼たちは、他の地域と違ってしこは踏まず、一度だけドン! と足音を立てて家の中へと入っていきます。
「ウォーーーーーーー!」「ウォーーーーーーー!」
「悪ぃ子はいねがー!?」「泣ぐ子はいねがー!?」
後はテレビでも雑誌でも良く見られる鬼たちが子どもを脅し、諭します。言うことを聞かない子は、手に持った袋に入れて連れて行くと脅します。泣く子もいれば、必死で我慢する子も、なかにはにこにこしている子もいますが、ぐっ、と迫られてたじろいでしまいます。ちなみに、子どもだけが取り上げられますが、若いお嫁さんもターゲットです!

 ひとしきり暴れた後は、家主がなだめる中、座敷に案内されてお膳とお酒を勧められます。お膳には手を付けず、お酒だけを飲むと、ナマハゲは「良いお年を!」と残して去っていきます。

 後に残った藁は、子どもの頭に巻くと風邪をひかない、頭が良くなると言われています。そのため、落ちないときなどは子どもや親がちょっと引っ張って取ってしまいます。

 最近は、藁で家の中が汚れたり、子どもが極端に怖がったり、逆に子どもがいないなど、なかなか家の中まで上げてくれるところは少なくなりました。それでも、玄関口だけでも、と集落内のかなりの家がナマハゲを待っています。県を代表する行事なのですが、なかなか本物を見られないということもあり、中には帰省した家族が心待ちにしている家庭も、そんなときは、玄関口ではたくさんのカメラが待ち構えていることもあります。

 その年の回り始めのナマハゲは、最初は照れもあるのか、それほど「怖い」とは感じません。同行した先輩たちから「青鬼がんばれー! 聞けね(聞こえない)どー!」とハッパをかけられることもしばしば。しかし、終盤になればなるほど「怖さ」が出てきます。

 そこには「怖さ」の秘密がありました。

 それは、家々で出される「お酒」、日本酒を次々と注がれるなまはげたちは、五件目辺りからしっかりと「できあがって」しまいます。こうなると怖いものなし、玄関に入った途端の勢いと叫びだけで子どもが泣いてしまいます。

 とはいえ、それだけではない怖さ、伝統が持つ重みが醸し出す「何か」あるのも確かです。日本の神様たちが、敬われるだけでなく恐れられていること、その事実がナマハゲの背後には確かにありました。昔から大切にされてきた行事だけに、ナマハゲとなって襲う人たちもかつては襲われた人たちです。同行した先輩たちの中には「今でも怖い」という方もいらっしゃいます。

 集落を数時間かけて回りきると、再び十王堂へと戻り、近くの石碑に次々とケラを巻きつけます。
こうして、その年の最後の行事が終わり、鮪川に新年が訪れるのです。

平成23(2011)年4月掲載

■参考文献
『ナマハゲ-その面と習俗-』日本海域文化研究所

【関連リンク】産地直送ブログ
2018年鮪川地域のなまはげ(2019年1月掲載)
なまはげのケデの稲藁天日干し(2018年掲載)

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