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産地直送ブログ

前ノ沢で「虫追い」行事、畦道で獅子舞!

2012年8月10日

193-5番、稲と獅子
7月22日(日)、由利本荘市鳥海町中直根(なかひたね)の前ノ沢町内で、昔から続く「虫追い」行事が行われました。前ノ沢番楽講中(ばんがくこうちゅう)によるもので、つつみ太鼓と摺鉦 (すりがね)のドンドン、チャカチャカという調べに合わせ前ノ沢町内の田んぼで獅子舞が舞われ、稲に悪さをする害虫を追い出しました。


「虫追い」は、農村地帯では全国的に古くから続く伝統行事です。
昔は当然ながら農薬もなく、太鼓をたたく音で害虫を追い払っていたと考えられます。
今でこそ田んぼの中には農道が整備され軽トラックが通れますが、
昔、前ノ沢では一人か二人しか通れないような畦道(あぜみち)しかなく、
虫の出る時期には細い畦道を通って獅子舞が舞われました。
途中、御神酒をいただいて回るため、田んぼに足を取られる光景もあったと言われます。

元気ムラの取材班が前ノ沢に着くと、ちょうど番楽講中の方と出会い、一緒に神社に向かいます。

神社へ登る坂道の分岐点に、「村社 直根(ひたね)神社」の立派な石柱が立っています。
坂を登った所に直根神社がありました。(写真の中央やや左に神社の屋根が見えます)
神社は村社であると同時に、諏訪神社でもあります。
002村社

講中の12人は、神社の隣りにある前ノ沢町内会館に集まり、
まず別当(べっとう)宅の当主・村上善右(よしすけ)さんを訪れます。

前ノ沢番楽講中では、獅子頭などは別当の家で保管しています。
年に何回も行われる舞のつど、別当の家を出発し再び納めるのがしきたりです。

善右さん宅を出た一行は、つつみ太鼓を先頭に、摺鉦 (すりがね)、
獅子頭を抱いた人と続きます。
先頭のつつみ太鼓をたたいているのが、善右さんの息子・善直(よしなお)さんです。
善直さんは、鳥海前ノ沢太鼓保存会のリーダーもしています。

004別当宅出発 011村社へ向かう

前ノ沢の獅子舞は、二人の舞い手で行われます。
獅子頭を扱うのは「獅子振り」とも「舞い手」とも呼ばれます。
柴田由喜(よしき)さんは獅子振りを任せられて5年になります。

「後幕取り(あとまくとり)」は柴田晃央(あきお)さんです。
獅子頭に続く布は「幕(まく)」と呼ばれます。

ドンドン、チャカチャカ 囃子の音が集落に響き渡っていきます。
青空の所々に白い雲が浮かぶ夏空の風景。
暑くもなく寒くもなく、風が適度に吹いています。
ヒグラシの鳴き声が心地よ~~い。

神社の山門をくぐって右手が神社です。
014村社山門をくぐる m07-017

畳の部屋で衣装に着替えます。
天井には灯籠が吊り下げられ、長押の上には先の大戦の戦没者の遺影が飾られています。
太鼓購入の寄付書には集落・団体名等が並び、人々の思いが感じられますね。
023着替え中 052奉納若衆

講中の人達が周囲に座り、神社の中で獅子舞が奉納されました。
040村社で獅子舞 36-神社内

獅子舞を終えると、一行は二礼、二拍、一礼の礼拝をしたあと神社を出て山門をくぐり、次の奉納場所に向かいます。
摺鉦が二人になりました。
050村社での挨拶 062山門を出る

二番目の奉納場所は、馬頭観音です。
舗装道路から急な坂を上ると、二本の松の大木に囲まれて馬頭観音がありました。
二本のろうそくが灯されています。

「昔、農家には必ず馬がいた。今みたいに農機具は当然ないから、
田を耕したり冬のそりを引いたりと馬は不可欠だった」と講中の人は言います。
「馬を二頭持っていると地主と言われるくらい、馬は貴重なものだった」とも。
080-2番馬頭観音

「畳二畳あれば、獅子舞は踊れる」と言います。
馬頭観音の前は狭い空間ですが、無事奉納を終えました。

『秋田の田植習俗』(秋田県教育委員会発行、1968年)に、馬を使って代掻き(しろかき)をしている写真があります。一人が棒につけた手綱を引き、一人が馬が引く代掻き道具を動かしているものです。別の写真では、女の人が地ならしの道具を一人で引いていますから、馬がどれだけ貴重だったか知れません。

舞い手も囃し手も、共に来ている人も、一息入れます。
091-2番ひと息

馬頭観音での奉納を終え、一行は太鼓と摺鉦を響かせながら、イチイの巨木に着きました。
推定樹齢600年、秋田県の天然記念物になっています。
※イチイの巨木については元気ムラサイトをご覧下さい。
ものすごい太さで、年代を伺わせますね~。

イチイの巨木は、道路から一つ上がった高台にあり、
そこには立派な「真坂長次翁碑」がありました。
長次翁は、明治から大正時代にかけての番楽の師匠ということです。ここで獅子舞を奉納します。
094-3番イチイの木 102-3番真坂長次翁碑

イチイの巨木の下には別の碑があり、近くに長さ約30センチメートルの、穴が開いた石がありました。
町内の人の話では、別の場所にあったもので、殿様の馬の手綱をつないだと伝えられています。
118-3番馬つなぎ石

そして、いよいよ田んぼの中へ。
写真では、橋をはさんで、右が中直根、左が前ノ沢町内の田んぼです。
その境で獅子舞を踊ります。
141-4番、中直根の境 127 -境

獅子舞を終えると、近所の人がおもてなしをしてくれました。
御神酒や、取れ立てのキュウリの浅漬け、スイカなどが講中の方に振る舞われます。
手前は獅子頭です。
153-4番、中直根の境もてなし

近所の家の庭では花々が咲き誇っています。
皆さん、話題が盛り上がって、にぎやかなひと時です。
155-4番、花壇 157-4番もてなし

一行は、太鼓と摺鉦の音を響かせながら、田んぼの農道を進んで行きます。
右側には小川が流れ、内側はコンクリートの擁壁で覆われていました。
かつては洪水にしばしば見舞われ、一帯の田が水浸しになったと町内の方が語ってくれました。

そして獅子舞の一行が着いたのは、前ノ沢町内の田んぼの中を通る農道です。
写真の左には細い用水路があり水が流れていますが、
この日、田んぼは水を抜いていました。

獅子舞の中で「獅子」は様々に姿を変えます。
横から見ると、ライオンに似ているような、“本物”の「獅子」の姿になりました。
178-5番、田の畦道

獅子舞は、舞い手の「獅子振り」と、
「後幕取り(あとまくとり)」との呼吸がぴったり合うことで、
獅子が“生き”てくることが良く分かります。

風をはらんだ幕が、また獅子舞の違った側面を見せてくれます。
屋外でないと見られない光景ですね。
181-5番、田の畦道 196 ー田の中

これで神社から始まって、五度目の獅子舞となりました。

もちろん、小休止を取っての進行ですが、
暑い中で獅子舞を踊る舞い手の方の大変さを感じながらも、
取材班は写真を撮るのに一生懸命でした。

ふと思うと、獅子舞の全体の動きを見失っていたと思って、
カメラを置いて、じっくり見る時間を取りました。
すると、獅子舞の奥深さが少しですが見えてきます。

「獅子振り」が幕を体に巻き付け、天に昇る姿は、まさに「龍」のよう。
「龍」の威厳で、虫を飛び散らすのかもしれません。

獅子頭を地面につけ、大地を“はむ”ようにする姿は、
土地に染みついた悪霊を噛み砕いているかのようです。
あるいは、地面から湧き出す虫たちを食い尽くしているのでしょうか。

一息、肩から力を抜いて見ていると、それまでの獅子の仕草が思い出されて、
舞い手の方の獅子舞にかける“思い”が感じられるような気がしました。

畦道にはえる雑草は、害虫の生息地。
農家の人は、最低でも3回は草刈りをすると言います。
この日、あぜの草はきれいに刈り取られていました。

太鼓の音が聞こえると、近所の人が顔を出してきます。
害虫もきっと驚いて、遠くに逃げていったことでしょう。

獅子が吠えています。
威厳のある姿です。
199-5番、田の畦道

そして6番目の奉納場所での獅子舞です。
写真左が下直根集落で、右が前ノ沢の田んぼ。境目です。
風が吹いて、また違った獅子の姿です。
209-211

ひとまず神社に帰り、礼拝を捧げます。
218、神社で挨拶

無理を承知でお願いし、獅子頭を抱いた姿をカメラに収めました。
224ー獅子頭

そして7度目の獅子舞は、別当のお宅で舞います。「納め獅子(おさめじし)」と呼ばれます。
先祖の方が一同に見守る中、ドンドン、チャカチャカと囃子が鳴り、獅子が舞います。
226別当宅 231-7番別当宅

写真中央の方が当主の村上善右(よしすけ)さんです。
232-7番、別当宅(村上善右よしすけ)

舞が終わると、獅子頭は村上さんの家で保管され、次回の舞に備えます。
以前に使用していた獅子頭は戦前の作らしいですが、
今は「隠居獅子(いんきょじし)」と呼ばれ、“眠っています”。

神社での奉納から、村上さん宅へ帰るまで約二時間半。
風があるとは言え、7度も舞ったお二人は汗だくです。

お疲れの中で「虫追い」を成し遂げた感想を聞くと、
「後幕取り」の柴田晃央さんは
「これで、いい米ができると思います」
と大変元気な答えが返ってきました。

「虫追い」は全国で広く行われている伝統行事ですが、
鳥海町地域で現在も行っているのは前ノ沢を含め二町内だけと言われます。

『秋田農村歳時記』(長山幹丸他著、秋田文化出版社刊、1976年)の記述では、「由利郡鳥海村笹子(じねご)ではムシボイがおこなわれる。(略)青年たちが二十~三十人集まって、少年ほどの大きさのワラ人形を作り、それを首かせにかつぎ、二拍子のはやしで田圃を巡回し、村境の川に流すものである(略)。
また、高い山(真昼山、東鳥海山)に祀られている神社から虫よけの札をもらいうけて来て、長い木か竹につけて田の水口にさしたり、神官を招いて虫祭りの祈祷をしてもらい、お札をもらい受けてヤナギにつけ田圃に建てるところもある」とあります。

また『村の生活誌』(佐藤正著、無名舎出版、2001年)では「明治期における秋田県の凶作・不作二五回のうち、約半数が害虫の被害によるものであり、風水害・病害」とのトリプルパンチで、「決定的な被害に発展していった」とあります。
さらに、害虫の駆除方法としては、蛾の捕殺、長い松明(たいまつ)に火をつけて青田を一周する、川の堤防でたくさんの藁を燃やす「ばばえこ(婆家こ)、じじえこ(爺家こ)」など様々な行事が行われていたと書かれています。

鳥海町には約380年前から伝わる「本海番楽」があり、
町内では13の団体が伝承しています。前ノ沢番楽講中はその一つです。

8月16日に開かれる「鳥海獅子まつり」に出演しますので、ぜひご覧下さい。
「第38回鳥海獅子祭り」の詳細は由利本荘市観光協会公式サイトをご覧下さい。

「虫追い」を終えて扉を閉じられた直根神社。
様々な思いと歴史が大事に守られ、引き継がれています。
234ー神社 235 - 杉

「虫追い」を終えたあと、お盆に行われる「前ノ沢盆踊り」の打ち合せが
神社に隣接する前ノ沢町内会館で行われました。
踊りの内容や練習日程のほか、当日の盆踊りの役割分担の確認がされました。
役割としては、踊り、太鼓、獅子舞、焼きそば、焼き鳥、金魚、かき氷など
12の担当を町内の方全員が担います。

毎年、盆踊りのテーマ(漢字一文字)を決めて実施していますが、
今年は「幸」とすることが決まりました。

取材班は町内の人にお礼を言い、帰途につきました。
盆踊り会場となる直根診療所駐車場そばの花壇には、
コスモスの花などが植えられ、色鮮やかに咲いていました~。
240花壇 241花壇

以上、前ノ沢から「虫追い」行事のレポートでした。

※毎年5月には、直根神社例大祭が行われます。
今年の様子を産地直送ブログで紹介していますので、ぜひご覧下さい。

※鳥海前ノ沢太鼓保存会のホームページには、前ノ沢の四季折々の集落行事の様子が紹介されています。
「鳥海前ノ沢太鼓保存会」ホームページはこちらから。

Author: | Category:08由利エリア, 中直根(なかひたね)地域


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