交通死亡事故加害者の実態

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県警交通部の"事故後の追跡調査結果"から

 交通事故の恐しさや悲惨さについては、あらためて述べるまでもないと思われるほど、これまでに何度も語られてきた。
 ある日突然、何の前ぶれもなく襲ってくる交通事故は、被害者やその家族を一瞬のうちに不幸のどん底へと突き落としてしまう。
 しかし、悲惨な状態に陥るのは被害者側ばかりでなく、実は加害者の方も同様だということが交通事故の持つもう一つの恐しさといえよう。
 加害者本人の場合、それでも"身から出たサビ"といえるのかも知れないが、何の罪もないはずであるその家族までが塗炭の苦しみにみまわれるのは悲痛である。
 たとえば──
 「私はもう生きてゆくこんきも、力もなくなりました。
 署長様、ご承知のように私の夫も死にました。そして相手の人も死にました。夫は自業自得でありましょうから、如何ように責められてもしかたがありません。でも、あとに残った私と子供二人にまでその責任があるのでしょうか。(中略)
 どうして親子三人生活すればよろしいのでしょうか。罪のない子供たちと、生活だけは近所の子供たちと同じようにしてあげたいと願うのは母として当然のことではないでしょうか。子供たちに「お父さんどうしたの」「なぜテレビがなくなったの」「テレビがみたい」とせがまれます。
 子供たちは今すやすやねむっております。これからお父さんのもとに行くのも知らずに!
 署長さん、この小さな子供の命をうばう母をばかな女とおよび下さい。でも、子供をのこしたなら、あとの子供たちの生活を考えるとあわれでなりません。親子三人でお父さんのもとにまいります。
 ご遺族のご両親のおっしゃることは決して、こ無理なことではありません。私の夫さえ、酒を飲まずに運転していたならば、決してご子息様を死なせずに済んだのでございます。

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 私と子供二人の命とひきかえに夫の罪をおゆるし下さるよう、ご遺族のご両親様におとりはからい下さいますようお願い申し上げます」。
 当時三十八歳の会社員が酒酔い運転で追越しをかけ、対向車と正面衝突、双方とも死亡した事故により、加害者の家族(三十二歳の妻と五歳、三歳の子二人)がそれまでの平和な家庭を壊され、賠償金の支払いや生活苦のため自殺にまで追いつめられた。あとに残されたこの遺書からは、家族がたどった苦悩の軌跡がうかがわれ、交通事故の悲劇牲を浮き彫りにしている。


悲惨な加害者の実態

 こうした交通事故の加害者側の実態を調査し、明らかにして事故の恐しさを再認識させることで事故防止に役立てようと、県警察本部交通部は"秋田県における交通死亡事故加害者の実態"と題する資料をまとめた。
 昭和五十一年四月から翌年三月までに県内の交通死亡事故は九六件、一〇一人の死者を出している。資料はこの死亡事故加害者のうち県内運転者九六(うち死亡者三四)人の本人および遺族のその後の実態について調査したもの。
 それによれば、まず死亡事故後の加害者の刑事処分状況は、死亡者を除く五八人のうち、懲役、禁錮の実刑判決を受けて服役した者一〇人、執行猶予一一人、罰金刑二〇人、少年(二十歳未満)のため保護監察中の者八人、公判審理中九人となっている。
 賠償金の支払いについては、加害者が服役中で、家族に収入の道がなく補償の問題で困っている者八人、支払いのため先祖から受け継がれた田畑の一部や家屋を売払った者一八人、支払いのための借金返済で妻が働きに出たもの一〇人などとなっており、加害者自身だけでなく家中が賠償支払いの金策に悩んでいるという実態である。
 事故後の勤務環境などについてみてみると、死亡事故を起こしたために免許の取消し処分を受け解雇されたり、あるいは勤めにくくなって退職した者二〇人、減給処分や配置換えなどで収入が減った者一三人、解雇され再就職できずにいる者五人などとなっており、ここにも加害者の苦悩がのぞかれる。
 事故後家族との関係もうまくいかなくなっている。親がノイローゼになり家庭が暗くなったもの二人、家族がショックで寝込んだもの一五人、夫婦仲が悪くなり家庭生活がメチャメチャになったもの五人、職を他に求め家族と別居中の者五人という具合に家庭生活に暗い影を落しているケースが多い。
 こうしてみると、交通事故を起こした者は、本人ばかりでなく家庭までを苦悩の淵へと追い込んでいることが、数字の上からもはっきり読みとることができる。
 ここで、事故後の事例を同資料から紹介しよう。
 一、寒さしのぎのため、コップ酒三杯をあおり普通貨物を運転した五十歳の会社員が、横断歩行中の人をはねて死亡させた。
 事故を起こした会社員は、免許取消し処分のほか禁錮一年の実刑を受け服役中であるが、事故後一年たっても被害者との補償問題が解決されていない。
 二、スピードの出し過ぎから歩行者をはね死亡させた四十歳の工員は、免許取消し処分を受けるとともに罰金刑に処せられたため、それまでの会社を退職した。さらに補償問題では解決の見とおしもなく、失業保険での生活も苦しく悩んでいる。

 交通安全が叫ばれて久しいにもかかわらず、後を断たない交通事故だが、その陰には被害者や加害者およぴ家族たちの悲惨な生活があることを肝に銘じておくことが必要であろう。その上で一人一人が交通事故を起こさぬよう、また事故に会わないように注意することが事故防止への近道となるはずである。