産業 新風土記 (第23回)

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クリタマパチに強い"夢の品種"   秋田の風土がつくり上げる

西木村 《西明寺栗》

 今年の栗は、夏の日照りで実がやや小さいが例年にたない豊作、価格は昨年より三割ほど安いとあって久し振りにうまい栗が食べられそう。日本には二百種を超える栗の品種があるというが、県内で最も多く栽培されているのが西明寺栗。約千ヘクタールある栗園の九〇〜九五パーセントに植えられている。
 西明寺栗は西木村西明寺でつくり出された品種で、栗の大敵クリタマバチに強い優秀な木、本県を代表する栗であるがいったいどのようにしてつくられ、栽培されているのだろうか。


古い歴史をもつ西明寺

 西木村で栗が栽培されるようになったのは三百年ほど前のこと。当時、角館の佐竹侯が栗発祥の地である丹波、養老地方から種子を導入し増殖を奨励したが、これが現在の西木村西明寺地区にもたらされたもの。
 この栗は永い間、実生繁殖をくり返して今日まできたもので、それだけに品種として分類できるものは極めて少なかったものの、栽培はきわめて盛んで、西明寺栗の基礎は築かれていた。
 昭和三十五年、本県にも恐ろしいクリタマバチが侵入。二百ヘクタールあった栗園のほとんどが大きな被害を受け、一挙に四十ヘクタールに減少。西明寺地区も例にもれず壊滅的といわれるほどの状態に落ちいった。栗栽培農家は最大の経営危機に落ちいったが、この危機から救うため県がとった措置がクリタマバチに強く、本県の気候に適応した品種の開発。その品種を選定する地として白羽の矢が立ったのが、栗栽培が最も盛んであった西明寺地区。

 そうして日本の栗の権威である千葉県林業専門技術員為国未幸氏などの協力により、同年二品種、西明寺一号、二号、その後さらに三品種、三号、四号、五号を選抜、この五品種が秋田県の奨励品種に決定された。
 選抜の方法は、クリタマバチの被害を受けた栗園にあって、まったく害を受けずにそのまま残っていた木を対象に行われた。それらの木はクリタマバヂに強いだけでなく、土地風土に適し、成長の点でも申し分のないものが多かったが、その木がいろいろの角度から調査、検討がなされ、品種として選出されていったのである。
 五品種の母樹には一号、二号のように人名がつけられているものがあるが、一号は樹齢百年に達しようという大木ながら、根元にな接木の跡が残っており、当時すでにこうした技術をもち、改良を行っていたことがうかがわれるし、そうした中からクリタマバチに強い木が発見されたことは、先人の粟に対する執念をみる思いがする。


秋田県で発揮する特性

 西明寺栗の最大の特性は全品種ともクリタマバチに強いことだが、なぜ耐性があるのかは科学的に解明されておらず、はっきりしたいが、西木村役場の佐藤政一産業課長は

 クリタマバチが西明寺栗の樹液をきらうか、幼虫が育たないためではないか

とみている。その他の特性は品種ごとに多少ちがうので若干説明してみよう。

 西明寺一号(善兵衛種)=樹勢が極めて強く大樹となり、収量が多い。果実は二〇〜三〇グラムの大粒で甘味が多く、生乾食用、加工用ともに適する。熟期は十月中旬。
 同二号(茂佐衛門種)=樹勢、樹姿、収量、品質、食味などは一号とほとんど同じ。果実は二五〜三五グラムと大きい。 
 同三号(寒月)=三十九年に選抜されたもので樹勢、樹姿よく、大樹となる。果実は二五〜三〇グラム。実は堅密で甘味強く、煮崩れしないので、シロップ缶詰などの加工用に向く。
 同四号(駒錦)=二号の予備として選抜された。果実は三五グラムと最も大きいが、風味がやや劣る。
 同五号=早苗種として選抜されたもので樹勢、樹姿などは他種と同じだが、果実は十五グラムと比較的小さく、絶対収量がやや劣る。しかし熟期が九月上旬と西明寺栗の中で一番で、現金収入が早いのが特徴。

 農家では各品種の特性を考えて栽培しているが、今のところ本命はなんといっても一号と二号。選抜が早かったことで、性質が他の品種よりよく分かっているし、なんといってもこれまでの実績が大きくものをいっている。三、四、五号はまだ本数が少なかったり、経済効果がはっきりしていないため普及は遅れているが、三号などは非常に優秀な木として将来性が期待されている。

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 また栗は性質上、自家授精率は著しく低いので、必ず別品種を混植して授精率を局めているが、西明寺栗の場合、一号には二号か三号か四号を、二号には一号か三号を、三号には二号か四号を、四号には一号を、というように混植されており、例え三、四、五号のようにまだ栽培が普及していない木であっても、その面での立派な存在価値があるわけだ。
 各品種ともそれぞれの特性をもっている西明寺栗だが、どこの土地にでも適するかというとそうでもない。一、二号を神奈川、茨木、福島の各県で試験栽培したことがあるが、結果は思わしくなかった。秋田より温かい土地では木の芽が早く動き出し、霜害を受けて成育が悪かったのである。栗も土地、土地に合った品種があるように、西明寺栗も秋田の風土の中で出きあがったもので、秋田でなければ特性を発揮できたなかったのである。


安い栗の供給を

 西明寺栗の本家西木村では百二十ヘクタールの栗園の九分九厘が西明寺栗。一号が六割、二号が三割その他が一割の比率。十アールに四十本植栽されている。今年、西木村で収穫が可能だった面積は八十四ヘクタール、十アール当たり平均二百キロとして五千九百万円の売り上げがあったことになるが、木が全体的に若いので、これから先の収穫が大いに楽しみだ。
 栗の山での卸値は、昨年よりキロ当たり百五十円ほど安い三百五十円だったが、小売店では五、六百円はし、おいそれと買える価格ではない。消費を伸ばすためにも、もっと安くならなければならない。佐藤課長は栗の価格を大幅に下げることができるという。

 昔、栗の栽培はまったく自然、山にまかせてきた。だから地力がないため豊作と凶作が一年おきにくり返されていた。現在はすべて樹園地での生産となっているが、それには造成費などに資金がかけられているので肥料を施して毎年一定の収量を上げたければならない。しかし、まだ昔の頭で取り組んでいる人もおり、十分な管理がされているとはいえない。栗は他の作物と同様肥料を必要とするもの、少し手間をかけて堆肥をつくり、配合肥料を施せば収量はグッと増える。そうなればもっと安い栗を供給できるし、生産者の増収にもなるのだが

と生産者の経営意識の変革を望んでいる。
 昨年まで栗はすべて経済連ルートで販売されていたが、初めての試みとして、今年一部で観光栗園の開設が予定されている。背後には観光地田沢湖があるだけに訪れる人は多そう。本番は来年以降だが、大々的にPRし、西明寺栗を大いに売り出そうと構えている。
 これまで寒冷地の木県では、栗の栽培は不向きとされていたし、実際成功した例も少なかった。しかし西明寺栗の出現、普及によって事情が一変しているし、逆に有利な要素も出ている。一例をあげれば土壌。関西地方の栗産地は、火山灰地のため木の生産年数は十五年ぐらいが限度だが、秋田県の場合四十年はだいたいコンスタントに収穫はできるという。こうした有利な条件を生かしていけば広大な林野なもつだけに、本県が栗の特産地として生まれ変わることも夢ではないのではないか。