雪国の土人形

[PDFファイルを表示]

八橋人形

 藩政末期から最近まで、秋田市近在では、天神まつりやひなまつりになると、この八橋人形がかざられたものだ。
 雪もようやく消えて、チラホラと梅の花がほころび始めるころ、 八僑の天満神社や日吉神社におまいりがてら散歩にくる人も多くなる。これらの参けい人か、帰りのおみやげに二個、三個と近くのお店から買って帰るのが"八橋のおでんつあん"や"おひなさん"なのだ。八橋で土人形がっくり始められたのは安永・天明のころ(およそ百九十年前)。京都の伏見からやってきた人形師が川尻の鍋子山にかまをつくり焼いたものといわれている。
 いま八橋では高松、道川、遠藤の三軒で人形づくりをしているが、いずれも生業とはなれていわゆる片手間の仕事にされている。

 原料になる粘土は昔ながらの手内粘土だが、良くつんだ弾力性のある持味はいまも失なわれていないそうだ。
 粘土がよくこね合わされると原型につめられ"形ぬき"される。型の古いのは江戸末期のものもあり、新らしいものでも明治初期を下らぬとのこと。二枚の原型があわされて人形の姿になるが、これを指先ひとつでこまかなところまで整形され、しだいに人形らしくなっていく。整形されると自然乾燥後四時間から五時間ほどかまで焼しめされる。一回に百個前後の八橋人形が焼きあがり、白色に下地ぬりされてから、個々に顔料で彩色され店頭に並べられる。
 ちかごろは中山人形など新デザインを取り入れた土人形も出回っていて、昔からのスタイルを守る八橋人形はいささかおされ気味だし、製作の全過程を手先にたよるものだけに、量産したいにも限度があり、しかも家事の余暇をさいての作業のために企業化にはほど遠いという。

 県内でよく売れるものは『天神様』『おひな様』『唐獅子』『とうろう』など。県外では『にわとり』『牛乗り天神』『かたあげ子守』『鯛のり大黒』『おいらん』『えずめボッコ』『鳩ぶえ』などに人気がある。価格はいずれも百円からあって、高くても四百円を出ないというから、手ごろなおみやげ品としても人気がある。
 販路は県内では民芸愛好者や趣味の会などに限られ、初天神にそろいものを買っていく人はいまではまれなくらい。
 県外ではデパートの民芸品売場で扱われていて、なかなかの好評である。稚拙で質朴なところが都会の人たちの心をとらえるのであろうか……。
 製造元の一軒、高松茂子さんは八橋人形のつくり手として人気のあったミツさんの跡の継ぐ人だが、やはり粘土こねから発送までの全工程を女手ひとつでまかなっているから大変な作業でもある
 高松さんはことしも全日本郷土玩具売会にかなりの作品を出している。即売会ではこの八橋人形に人気が集まり、各方面からの予約も多くなったというが、製作時間もないし需用に応じきれないとのこと。
 八橋人形は肉づきの良さと配色の大胆さにその人気があるという。おおまかなその姿に多くの人たちは雪国の"土のあたたかさ"を感ずるというが、県内でも残り少ない手細工でつくられ、しかもその伝統が女の人の手で守られているという現状であり、八橋人形の存続について愛好家から憂慮されているところである。