生物:緊張したときに心臓がどきどきするのはなぜ?

2012-11-30
 
★質問:【緊張したときに心臓がどきどきするのはなぜ?】

[ニックネーム:カルピス 中学校2年生]
 緊張したときに心臓がどきどきするのはなぜですか?


★回答:
 ドキドキするという感覚は専門用語で『動悸(どうき)』と呼ばれています。心臓は私たちが眠っている間も休みなく働き全身に必要な血液を送りますが,普段は心臓の拍動(はくどう;心臓が収縮して血液を動脈から押し出し,拡張して静脈から血液を受け入れる運動)を私たちが自覚することはありません。動悸は,心臓の通常と異なる収縮で生じます。緊張すると心臓の収縮が強くなり,拍動が速くなることで動悸を感じるのです。

 こうした心臓の変化はなぜ生じるのでしょうか?

 心臓の収縮は,心臓にある『自律神経』がコントロールしています。自律神経には交感神経と副交感神経の二種類があります。交感神経は敵と闘う,あるいは逃げ出す時に,エネルギーをたくさん使って体が機敏に動けるよう全身を調節します。副交感神経は危険のない環境で最小限のエネルギーを使って生命を維持しています。正反対の機能を担う交感神経と副交感神経は体の中で綱引き状態にあり,バランスをとりながら対応しています。
 交感神経が優位になると,筋肉の血管が太く開き,心臓の収縮は強く,拍動は速くなります。つまり全身の筋肉に必要な血液を送り出し,機敏な動作をするための準備を行います。一方,副交感神経が優位になると,心臓の収縮は弱まり,拍動も遅くなります。筋肉の血管は細くなりますが,腸の血管は太くなります。これらにより筋肉で無駄なエネルギーをあまり使わないようにして,食事からの栄養分を取り込みやすくしています。
 交感神経と副交感神経は対立に働くばかりではありません。例えば横になった体勢から立ち上がると体内の血液はより低い場所に集まろうとし,体で一番高い場所にある脳の血流が減少します。このとき交感神経と副交感神経は協調して各部の血管を収縮または弛緩させ,脳に血液が十分行き渡る様に,血圧調節を行います。自律神経がうまく働いていない状況では,立ち上がっても血圧調節できず脳の血流が減少して『立ちくらみ』を感じます。

 さて,自律神経は脳にある『視床下部』でコントロールされています。視床下部は,人の感情と密接に関わる『大脳辺縁系』と連絡していることが分かっています。ヒトが緊張する時(例えば人前でスピーチするとき)は大脳辺縁系が興奮します。これが視床下部に影響を与え,全身の交感神経を優位にします。こうして心臓の交感神経が心臓の収縮を強くし拍動を速めるため,動悸を感じるのです。

[回答者:秋田県立大学生物資源科学部 応用生物科学科教授 穂坂正博先生]