秋田を味わいたい!

秋田七旬物語


にはフワ雪が舞い、だが、山にも野にも里にも、ちらちらと春の訪れが見え隠れするこの季節。

 雪解けの始まる中、豪雪の地湯沢では、久しぶりの土の感触を楽しむように「ヒロッコ掘り」が始まる。ヒロッコ(アサツキ(野びる))は、「春告げ魚」のカド(鰊)と一緒に鍋にしたり、酢味噌で和えたりして、厳しい冬から解放され、春の予感を高める。日当たりの良い土手には、バッケやアザミも芽を出し始める。バッケ(ふきのとう)は、マタギのあいだでは、冬眠から覚めた熊が食べてその苦みで体内にたまっていた物を排泄する、と言い伝えられている。そんなバッケは、里では自家製の味噌を使った「バッケ味噌」をや天ぷらとしてそのほろ苦さを味わう。熊だけでなく人もその苦さで春の訪れを確信するのである。
 3月、4月は「アゴ別れ(網子別れ)」の季節。卒業・入学・就職などでふるさとを離れる若者も、着任地として秋田を訪れる人も、それぞれが秋田の味を楽しみ浅い春を惜しむ。そう、「集合離散」の季節なのである。

 山での雪解けとともに、海からは春告げ草と云われる「ギバサ」があがり、店頭に並び始める。生では褐色だが、この海藻湯通しすると鮮やかな緑色に変わり、軽く包丁でたたくとトロトロと粘る。春を告げるような鮮やかな緑色と粘りは、口重い東北の秋田県人を連想させる食べ物かもしれない。

 3月中旬にもなると里の雪はすっかり解け、海からは卵をいっぱいつめた「ままイカ(ヤリイカ)」や生きたままたべる「しらや(しろうお)」や、この時期だけ収穫される「イサジャ(小アミ)」が、そして川では雪解け水の中、ヤマメやイワナも春の訪れを喜ぶように泳ぐ。
学式・入社式等が終わりホット一息するころ、雪国秋田は一気に春本番となる。
 里の桜のつぼみが赤く色づき始める頃、山はカタクリの群生でピンク色に染まり、水芭蕉の花で湿原は白くなり、野原は若緑に輝く。種をまき、田植えの準備が始まる頃、山では山菜が競うように芽吹く。サシボ・アザミ・こごみ・あいこ・わらび・シドケ・タラの芽…と。雪がすっかり消えた里では、待ちに待った山菜が食卓を賑わす。山菜のえぐみや苦みは、雪で閉ざされた秋田の人々に“動く”原動力を与えてくれる。天ぷら、お浸し、和え物にと工夫をこらし家庭の食卓を飾る。そう、この時期の秋田の山菜は春告げ草なのである。

  水田に水が張り田植えが終わる頃になっても、山には残雪が見え、標高の違いに人からあらためて驚く。産土神をまつるお祭りが繰り広げられるのもこの時期だ。

  また、各地でゆく春を惜しむように、山の恵みは塩漬けや乾燥にされる。そうして過ごしたばかりの冬に備える。きつい山の瀬で収穫したぜんまいは、茹でてもんで乾燥させ、ワラビやニオやウドなどは塩漬けだ。町では本格的になった山菜の朝市が始まり、季節感を求める人々で賑わう。

  ゴールデンウィーク前後には、角館の武家屋敷周辺の枝垂れ桜や桧内川堤の桜並木が見頃となり、千秋公園や桂城公園は花見の宴が開かれ、大潟村の菜の花ロードは桜並木。ドライブを楽しめる季節でもある。
が過ぎると秋田に爽やかな夏が来る。空はすっきりと青く澄みわたり、白神山麓では、「じゅん菜摘み」の小舟が水面に浮く。
 一つ一つていねいに摘み取る風景は、秋田の初夏の風物詩である。じゅん菜は、小さいほど価格が高くなるが、じゅん菜日本一山本町では大ぶりのものを鍋で味わう。鶏やイサジャのダシが煮立ったら鍋に入れ、じゅん菜の 色が変わったら取り出し食す。つるりとしたゼラチン質のじゅん菜の歯ざわりを楽しむいわば「じゅん菜のシャブシャブ」である。

  山のブナの若葉がまぶしくなる頃、山菜の真打ちタケノコ(根曲がり竹)が登場する。

 孟宗竹や淡竹でなく、一般に笹の若芽が傾斜した土の中からひょっこりと顔を出す。直径は1~2cm、長さは10~20cm程でエグミがなく、煮ても炒めてもダシが良く出る。ほんのりと甘みさえあり、どんな食材とでも不思議と合う。まさに王者の風格を持ったタケノコの旬である。

  男鹿沖の日本海では、真鯛が産卵期を迎え鯛漁の季節だ。この時期に男鹿でとれる真鯛は、知る人ぞ知る絶品なのだ。そして男鹿の「鯛まつり」が始まる。

  水田の稲も生長し、水面の緑色がその濃さを増してくる。6月の下旬ともなれば秋田にも梅雨がやってくる。トマト・きゅうりの収穫が始まり地場野菜も豊富になり、山の幸・里の幸・海の幸やがっこ(漬物)の美味しい季節が到来する。
  
ヶ月たらずの短い梅雨も明けると、子供達は短い夏休みに入る。夏の日差しが強くなり海や川、山ではにぎやかな笑い声が響く。
 海からは、岩牡蠣やサザエがとれ、畑ではスイカや枝豆など夏野菜の収穫がピークを迎える。県内各地で小ナスが取れ始め、1個丸ごとつけ込んだ浅漬けが美味しくなる時期でもある。

  水田では、稲が花を開き、山では極上のミズが収穫される。こんな真夏の夏バテ防止に欠かせないのが、「クジラ貝焼き」と「焼きアナゴ」。秋田の土用の丑の日は、ウナギではなく焼きアナゴなのだ。アナゴといっても正式には「クロメクラウナギ」。夏の炎天下、風のない海で獲った5~6匹を竹の串にはさみ、炭火で焼くのは由利地方。

 1本そのままの棒状にして焼くのは男鹿地方。実にシンプルだが、味わいは深く大根おろしと一緒に食べる。一方暑い盛り、汗を流しながら食べる「クジラ貝焼き」は今では高級料理となりつつある。秋田では、クジラの脂身だけを塩漬けにした塩クジラで鍋料理を作る。旬の畑のナスと山のミズと塩クジラを、味噌やしょっつるで味を調える。食べているうちに汗がダラダラと流れて、終わる頃には爽快な気分になる。
  お盆の頃には、県内では成人式が行われ、久しぶりの友との再会。帰省客を迎えるよう、各地で夏祭りが繰り広げられる。七夕・竿灯祭り・花輪囃子・西馬音内の盆踊り。枝豆を摘みながらの高校野球の観戦をしたあとは、夏の終わりを告げる大曲の花火。そして夏の終わりとなる。
  盆をすぎると急に朝夕の風が涼しく感じるのは気のせいだろうか。

  いつの間にか水田の稲は色づき始め、早いものは穂をたれ始める。稔りの秋へと山も里も一斉に動き出す。9月の中旬には、今年の出来秋を占うように、収穫作業が目につく。下旬ともなれば、黄金色に輝く水田では稲刈りが始まり、まもなく店頭には“新米”の文字が並ぶ。
  秋の「五月晴れ」の日が続き、農作業が一段落した頃、川原や野原で秋の行楽「なべっこ」が始まる。地域により鍋の中身は新米のきりたんぽだったり、取れたての「いものこ」だったりするが、ダシはほとんどが地鶏と山のきのこで醤油味である。

  きりたんぽは、秋田の郷土料理として有名だが、その昔マタギ(狩人)が山小屋で獲物の山鳥の鍋にきのこや焼きおにぎりを入れて食べたことから生まれた料理といわれている。現在は風味の似た比内地鶏を使ってスープで食べている。

  今年一年の収穫に感謝する秋祭りが終わり、朝夕の気温が下がり始めると、山の贈り物「きのこ」が旬を迎える。山のきのこは、香り・歯ざわり・ぬめりと、栽培されたものとは全く異なる。きのこの盛期になると朝市で買い求めたり自ら山へ入ることもある。

 塩漬けにしたり水煮にしたりして、旬を楽しむ。山では、きのこだけでなくアケビやコハゼや山ブドウなども収穫の時期を迎えており、深まる秋を楽しめる。
  
刈りも終え秋も深まると、遠くの山々が色づき始める。日中と夜の気温差があるほど紅葉は美しいと云われるが、県内各地でも紅葉狩りが始まる。八幡平・田沢湖・抱返り渓谷・玉川温泉・須川温泉など温泉と紅葉を楽しんだ帰りは、きのこのお土産も並んでいる。

  田や畑の収穫がすっかり終わり、冷たい雨の合間をぬって冬への準備が始まる。仙北・平鹿地方では収穫した秋冬大根を一本一本ていねいに洗い、縄で編み煙で燻す。それを米ぬかと塩をあわせた床で漬けこむ「いぶりがっこ」づくりが始まる。農家から囲炉裏が消えると大根を燻す場所は、専門の薫製小屋へと変わった。漬け方は昔と変わらず一本づつ大きな樽につけ込む。口に含むとパリッとした歯ざりと心地良いいぶした香り  が広がりは、なんともなつかしい。まさしく「雅香(がっこう)」である。

  このほかに「大根の柿漬」(大根を柿の実と米ぬか)や「ナタ漬け」(ナタで切った大根の麹漬け)や「なすの花ずし」(丸ナスに餅米に菊の花や南蛮を重ねた)などその種類の多さは、発酵王国と呼ぶにふさわしく多様である。かつては自家製であった漬け物も、最近は専門の農家や業者によって漬け込まれ食卓にのぼる。山の初冠雪の便りが届く頃、人が集まるときりたんぽやだまっこ鍋が振る舞われ、寒い冬に備えて身を引き締める。 
  
田の冬の訪れは早い。寒さと雪は駆け足でやってくる。
 どんよりした鉛色の空の下、稲妻が走り、雷鳴がとどろき、みぞれ混じりの寒風が吹く。日本海が荒れる頃になる、と大時化に乗ってハタハタが産卵場所をもとめて寄ってくる。この季節、ハタハタは秋田に本格的な冬の訪れを告げる。ハタハタは冬期間ゆえに大衆魚として、県内各地に運ばれ加工される。大晦日にはハタハタ寿司として膳をにぎわせ、暖かい鍋の味付けてしょっつる。 

  年が明けても、どんよりした空の色。雪が降り積もり寒い日が続く。そんな中厳寒を利用した素朴な「干し餅造り」が始まる。1枚づつていねいに切り、ワラで編み上げ、凍らせて水分を抜く。口にするとホロホロと解け、手作りのやさしいほのかな甘みが広がる。

  寒さが続く中、県内では寒さをはねのけるようにエネルギッシュなお祭りが始まる。太平山のぼんでん、刈和野の大綱引き、大曲の川を渡るぼんでん・西木村の紙風船上げ・犬っこ祭り・かまくら・火振りかまくら等々。

  厳寒の中、早春を待つ「掛け魚祭り」は、海上安全と大漁祈願を込めて1匹20kgも ある大きな鱈を神社に奉納し、その全部を平らげる祭りである。特に雄の白子「だだみ」 と称され珍重される。乳白色で濃厚な味で刺身や天ぷらや寿司ダネやシャブシャブ料理 と味をたんのうする。

  そして、秋田は3寒4温の中少しづつ浅い春へと近づいていく。

 

このページのTOPへ